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歴史は繰り返す?!今のBEVと同じように否定されていたHEVが受け入れられるまで(4)

前回までは現在のBEV同様「市場になかなか受け入れられず」、そこから進化の歩みを続けるHEVと、並行進化していたBEVを紹介しましたが、今回はいよいよ「HEVの本格的大攻勢」です。3代目(30系)プリウスの大ヒットで一挙に軌道に乗るHEVですが、その転換点は2010年頃だった…と筆者は考えています。

目次

  1. 2000年代半ば、「燃費」以外の魅力を模索する電動化
  2. HEVの夜明け・2代目インサイト vs 3代目プリウスの決着は?
  3. 2010年に起きた大変化!プリウスタクシーの急増
  4. 東日本大震災で注目された、「最高のモバイルバッテリー」
  5. 筆者の初HEV体験と、「これが電気自動車か!」という驚き

2000年代半ば、「燃費」以外の魅力を模索する電動化

2000年代半ば、「燃費」以外の魅力を模索する電動化

1997年の初代トヨタ プリウス、1999年の初代ホンダ インサイト発売後、HEVは2000年代を通して少しずつ車種増加、各社の実験的なHEV発売を通して発展していき、急激な技術革新はBEVをも進化させていきますが、まだまだ決め手に欠けていました。


それでも2000年代半ばには異常なほどの下落で一時はレギュラーリッター90円切りもあったガソリン価格が反発して急騰していき、直噴エンジンや新型触媒などによる排気浄化の底も見えてきて、1990年代型「国産スポーツ黄金期」の名車が次々と消えていきます。


HEVも無難なセダンタイプだけではなく、ミニバン(エスティマやアルファード)、SUV(ハリアーやクルーガー)と、主にトヨタの努力によって魅力的な車種が増えていくのですが、「電動化による低燃費だけではモトが取れない」状況には変わりません。


いくらモーター単独によるEV走行や、モーターアシストで内燃機関(エンジン)の不得意な領域を補って低燃費化しても、「エンジン車と同じように走る」だけでは魅力不足というわけで、2000年代前半には「電動AWD化」に手がつけられます。


ここでも主要な役割を果たしたのがトヨタで、FF(前輪駆動)のミニバンやSUVのハイブリッド車には左右後輪へモーターを追加、モーターアシストだけではなく左右輪の回転差調整で走行安定性や運動性向上を狙う「E-Four」化。


また、走行に積極的なモーター使用を伴うHEVとは別ですが、日産も小型FF車の後輪へモーターを装着、凍結路や未舗装路で発進時のみ後輪の駆動アシストを行う生活4WD的な「e-4WD」を開発、マツダにも供給します(デミオやベリーサに採用)。


複雑な機械式AWDと異なり、電動化なら簡易的なAWD化はより簡易に、高度な電子制御デフを使わずとも、左右モーターの回転数調整だけで走行安定性を高めるのは内燃機関には真似できません(2020年代でも高級車以外は機械式AWDにこだわるホンダは別ですが)。


後にBEVでも強みになる技術ですが、一方で「HEVシステムそのものの進化による、エコカーとしての根本的な魅力アップ」が、2000年代末にトヨタとホンダで起きました。

HEVの夜明け・2代目インサイト vs 3代目プリウスの決着は?

HEVの夜明け・2代目インサイト vs 3代目プリウスの決着は?

2009年はHEVにとって、そして自動車にとっての「大転換」になる、節目の年となりました。


この年の2月、まずはホンダから2代目「インサイト」が登場、空力性能にも優れるHEV専用の5ドアファストバックボディに、初代やシビックハイブリッドで熟成された「IMA」システムの1.3リッター版を搭載する小型5ナンバーセダンです。


トヨタも同年1月、ひと足早く5ドアファストバックの空力ボディ化していた2代目(20系)プリウスをスケールアップし、システム出力は落ちるものの小型高効率化したリダクション機構付きTHS IIに大排気量の1.8リッターエンジンを組んだ3代目(30系)プリウスを発表。


先行したインサイトが「189万円から」という格安のプライスタグ(20系プリウス末期は233.1万円からだった)と10・15モード燃費30km/Lで勝負したのに対し、5月にモデルチェンジされる3代目(30系)プリウスの価格と性能が注目され…その結果は?


インサイトを少々上回るものの、先代より格段に安い205万円から!あくまで客寄せ用格安グレード「L」の話ですが、標準グレードの「S」でも220万からで、しかも燃費は「S」で30.4km/L、エアロチューンで低燃費化した「ツーリングセレクション」は35.5km/L!


しかも大排気量化で高速巡航に余裕を作り、モーターアシストのトルクを増幅するリダクションギアを組み込んで、システムの小型軽量・効率化を図ったリダクション機構付きTHS IIにより、モーター単独でも、モーターアシストでも力強い走りを実現。


足回りのぎこちなさや、回生ブレーキから油圧ブレーキへの切り替えが不自然という課題は残ったものの、「クルマとしての魅力」を考えれば、小さくまとめたものの、それ以外の新鮮味に欠け性能でも劣る2代目インサイトを、コストパフォーマンスで圧倒します。


それでも価格の安さで勝負できそうなインサイトへ、トヨタは最後の一撃を…なんと2代目20系プリウスをビジネスグレードに整理し、「プリウスEX」として継続販売、燃費は29.6km/Lと少々劣るものの、価格はインサイトと同じ「189万円」…勝負はつきました。

2010年に起きた大変化!プリウスタクシーの急増

2010年に起きた大変化!プリウスタクシーの急増

「手頃な価格に魅力たっぷりの性能」を誇った3代目30系プリウスに、それまでHEVへ様子見の気配だったユーザーは、文字通り殺到しました。


2代目20系でもジワジワと支持を増やして2008年度に7万3,110台だった販売台数は、3代目にモデルチェンジした2009年度、一挙に20万8,876台とケタ違いに増加し、初めて通年で販売した2010年度には31万5,669台を売りさばく、HEV市場空前の大ヒットとなったのです。


ちなみに現在も軽自動車ブームを牽引する国民車的な大ヒット作、ホンダ N-BOXの2023年度販売台数が21万8,478台、ピークとなった2019年度ですら24万7,707台でしたから、3代目プリウスがどれだけの爆発的ヒットだったかがわかります。


そしてもちろん、新規ユーザーだけではなく、既存のHEVユーザーも一斉に3代目プリウスを買い求めた結果、中古車市場には大量の2代目20系プリウスがあふれましたが、これに目をつけたのがタクシー事業者です。


筆者が住む宮城県仙台市でも、2010年頃にあるタクシー会社がある日突然、大量の20系プリウスを導入してタクシーに改装して使い始めたのですが、それからすぐに雪崩のような勢いで、法人個人問わずタクシーの「プリウス化」が進みました。


しかも最初は20系プリウスの中古やプリウスEXだったのが、気がつくと最初から30系プリウスを導入するタクシー会社まで激増します。


そうなると、2024年現在のリーフやサクラより少し多め程度に「街でちょっとは見かけるようになったな」程度だったHEV…というよりプリウスが、文字通り「街にあふれて普通にそのへんを走っている車」となったのです。


タクシーで使われるという事は、街のあちこちで見かけるだけではなく、乗る機会も増えるということで、筆者も飲んだ帰りに捕まえるタクシーに、あえてプリウスを選んで、運転手に話を聞いてみました(クルマ好きなら当然のことでしょう)。


まだ否定的なドライバーも少なくない時期でしたが、まとめると「そりゃ最初からタクシー向けのコンフォートなんかに比べればメンテの頻度は高いけど、静かでよく走るし燃費はいいし、遠くのLPGスタンドへ行かなくていいし」と、全体的には高評価。


しかもライバルの2代目インサイトは、5ナンバーにまとめようと小さくまとめたのが災いして後席ドア開口部が基準へわずかに足りず、タクシーに使えなかったことでも、プリウスに差をつけられました。


そうでなければ、プリウスタクシー以前にも見かけるようになっていた、2代目シビックハイブリッド(FD系)を使うタクシー会社は2代目インサイトを採用し、街にあふれていたのはインサイトタクシーだったかもしれませんが…。

東日本大震災で注目された、「最高のモバイルバッテリー」

東日本大震災で注目された、「最高のモバイルバッテリー」

街で日頃見かけるのもプリウス、タクシーで乗るのもプリウスとなり始めていた2011年3月11日、東日本一帯をマグニチュード9.0の大激震が襲います…「東日本大震災」です。


宮城県仙台市でも3週間ほどマトモにガソリンを入れられない状況が続いたものの(一般人は数時間並んでようやくレギュラー20Lなど)、公益事業者として普通に給油できたであろうタクシーはもちろん、一般のHEVユーザーも低燃費の恩恵に預かりました。


中でも話題になったのはエスティマハイブリッドなど、AC100V・1500Wコンセントを持つHEVで、「家電が使えるから長期間の停電でも助かった」という声が報道されます…現在のBEVやPHEVでも、日本ではV2H(Vehicle to Home)/V2L(Vehicle to Load)といった外部給電機能が重視される理由です。


さらにこの頃には、国産初の市販PHEV(プラグインハイブリッド)である「プリウスPHV」の官公庁や一部法人向けリースが始まっており、HEV以上に優れた外部給電機能を活かし、信号を動かすなど非常時のため、警察など官公庁から一般まで広まっていきました。


そして東日本大震災では自家用業務用を問わず、多くの自動車が津波などで失われたことや、給油で苦労した経験から、低燃費で実用性の高いHEVへ買い替える動きはさらに加速していきます。


3代目30系プリウスは、まさに「必要な時に生まれ、必要な時に必要なだけ供給される車」として、全てを追い風にする大ヒットとなり、より魅力的なHEVを求めるユーザー向けにミニバンやSUVも増えていきます。


そんなプリウスの快進撃を止めたのも、同じトヨタより「169万円から」という激安で販売された、1.5リッター版のリダクション機構付きTHS IIを積み、プリウス以上のJC08モード燃費35.4km/Lを誇る5ドアコンパクトハッチバックHEV、「アクア」(初代)でした。


2011年12月に発売されたアクアは、2012年度に28万2,660台を売りさばく大ヒットを記録(プリウスEXはアクア登場までのつなぎだった)。


最大のライバル、ホンダも1.3リッター版IMAの「フィットハイブリッド」を2010年に発売、インサイトに1.5リッターの上級版「エクスクルーシブ」追加など対抗しますがトヨタHEVの爆発的普及に対して差は広き、むしろここから本腰を入れていきます。

筆者の初HEV体験と、「これが電気自動車か!」という驚き

筆者の初HEV体験と、「これが電気自動車か!」という驚き

なお、2012年には筆者の実家も時流に乗って3代目30系プリウス(「S」グレード」を購入したので、筆者もついにHEVを運転する機会を得ました…何しろHEVなど周りでほとんど誰も乗っておらず、知人の20系プリウスで助手席に乗る機会があった程度だったので。


最初はとにかく驚きでした…システム起動でエンジンがかからないのは、アイドリングストップ車でも同じですが、アクセルを踏んでもエンジンがかからず、静かなままスーッと前に進んでいきます。


うまく動かせば60km/h近くまでエンジンをかけずにEV走行できるトルクと、モーターで走る限りガソリンを使わず排気ガスも出さない事に衝撃を受け、エンジンがかかれば余裕の走り、PWRモードを使えばレスポンス良好なターボ車のごとき力強いモーターアシスト。


「これが電気自動車か!」と感心しましたが、一番驚いたのは1年近く後のことで、普段はケチで通っている父が困った顔をしながら、私に「使ってくれ」と、ガソリンスタンドのプリペイドカードを差し出してきたのです。


もう高齢で自らの運転ではスピードも出さず、遠出もしない父はプリウスをほとんどモーターだけで走らせるためガソリンを消費せず、せっかく購入したガソリンスタンドのプリペイドカードが、ほとんど減らないまま1年の使用期限を迎えようとしていました。

このブランドについて

  • HONDA

    ホンダ

    現存する日本の主要自動車メーカーでは1960年代に最後発で四輪へ進出、大手の傘下に入ることもなく独立独歩で成長したホンダ。初期のスポーツカー「S」シリーズやF1参戦でスポーツイメージが強い一方、初代シビックの成功や、可変バルブ機構を採用した高性能なVTECエンジンで実用的かつスポーティな大衆車メーカーとして発展、1990年代にはミニバンのオデッセイやステップワゴン、SUVのCR-Vをヒットさせ、2010年代には軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」の大成功で軽自動車ブームの中心になっています。先進技術の開発にも熱心で、ハイブリッドカーやBEVなど電動化、運転支援システムの実用化にも積極的。

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著者プロフィール

【兵藤 忠彦】 宮城県仙台市在住のフリーランスライター。モータースポーツに参戦していた経歴は全てダイハツ車という、自動車ファンには珍しいダイハツ派で、現在もダイハツ ソニカを愛車として次の愛車を模索中。もう50代なので青春時代を過ごした1980〜1990年代のクルマに関する記事依頼が多いものの、自動運転や EVといった次世代モビリティでも楽しめるはず!と勉強中です。

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