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歴史は繰り返す?!今のBEVと同じように否定されていたHEVが受け入れられるまで(1)
公開日:2024/08/11更新日:2024/08/11
目次
ちょっとだけ、昔の話をしよう
筆者(CARSMORAライター・兵藤 忠彦)にとって…あるいは人間とは誰でもそんなものかもしれませんが、50歳になった今、20年や30年前の話は「この前の話」だと感じてしまい、ついついその当時の感覚で話してしまうことが、よくあります。
それが進むと「イマドキの若い者は…」が始まってしまうのかもしれませんし、私が電気自動車に関わっているのも、「過去にとらわれず、少しでも前に進みたい」という気持ちがあるからですが、若い頃は過去より未来より「今」が大事なことも、忘れてはいません。
だから若い読者からすると、「ちょっとくらい長生きしているからと、未来の話にまで過去の経験則でクビをツッコミたがるジジイ」と思われるかもしれませんが、ちょっとだけカンベンしていただき、昔の話をさせてください。
1974年(昭和49年)生まれの昭和人である筆者は、15歳になる1989年に「平成」へと年号が変わり、2003年(平成13年)までの平成ひとケタ〜平成10年代前半までが青春の「青年時代」でした。
車に関わる部分では、運転免許を取得した1993年(平成5年)にトヨタから4代目のA80型スープラが発売(※)、1990年代国産スポーツ黄金期の主力車種が全て出揃うとともに、スズキから現在の軽自動車ブームにつながる初代ワゴンRが発売された年でもあります。
(※日本では2代目まで「セリカXX」を名乗ったので、国内だとA80型は2代目)
最初は父のお下がりでトヨタのマークIIセダン(GX61型グランデ・4代目)、2年後にトヨタの4ドアピラーレスハードトップセダン、コロナEXiV(エクシヴ・初代)に乗り換えた頃、アフターパーツの規制が緩和され、タイヤや足回り、内外装のカスタムがOKに。
漫画「頭文字D(イニシャルD)」の連載が始まり、筆者もローダウンしたEXiVにインチアップしたタイヤ&ホイールを組んで、ちょっと「走り屋」を気取っていた頃もありました。
年寄りの「昔語り」が長くなりましたが本題はここからで、免許を取った1993年、筆者が住んでいる宮城県仙台市のレギュラーガソリン価格はおおむねリッター120〜125円。
それがみるみる下がっていって、筆者が大学を卒業する1997年(平成9年)にはリッター105円を切るのが当たり前になりますが、ガソリン価格の下落は止まりませんでした。
HEVが出たけど、ガソリンはついにリッター80円切り?!
HEVが出たけど、ガソリンはついにリッター90円切り?!
この1997年、12月には画期的な世界初の量販ハイブリッドカー「プリウス」がトヨタから発売されるのですが、もちろん何が画期的かと言えば、走行用/発電用の2モーターとエンジンの高度な協調制御を行うハイブリッドシステム「THS」による、驚異的な低燃費です。
初代プリウス初期型は燃費が28.0km/Lと言っても当時は10・15モードでしたから、現在のWLTCモードに換算すれば約17.6km/L…今ならトヨタ ヤリスの1.5リッター純エンジン車(6MT車で19km/L)にすら及ばず、「どこがエコカーなんだよ!」という数値でした。
しかし、1990年代までの車なんてカタログスペックはともかく、どんな車でも実燃費は10km/Lいけば上等、それもガマンを重ねたエコランでようやくで、何しろガソリンだけではなく物価も安かったものですから、話のタネ以外でエコランなんてやりません。
だからユーノス コスモの20B搭載車が1~2km/Lと言われても、社会人なりたての頃に同僚が買ったジープ チェロキーが2~3km/Lでも、「そういう車なんだから、ちゃんとガソリン入れとけ」くらいなものです。
そういう時代に初代プリウスは確かに「驚異の低燃費」でしたが、「それはわかったけど、あとは何がいいの?」と、「低燃費」のカードはアッサリ横に追いやられてしまいます。
つまりHEV(ハイブリッドカー)に価値などほとんど認められず、庶民が乗っても走行用バッテリーが電欠して通称「カメさんマーク」が点灯するまで全開した挙げ句に故障するので評判はメチャクチャ、お金持ちが環境アピールするためのセカンドカーが主な役目です。
しかも1990年代後半、バブル崩壊による不景気で需要が低迷する中、生き残りがかかるガソリンスタンドは「ヨソが下げたらウチはもっと下げる!」という勢いでどんどん値下げしていき、ピークとなる1999年頃にはレギュラーガソリンがリッター80円台で当たり前。
仙台のように製油所が近い地方都市では全国平均より安いものですが、老朽化した簡素な設備はそのままに現金払い限定の格安スタンドを除き、筆者が見た最安値は茨城県日立市での「リッター79円」でした。
1999年当時のレギュラーガソリン全国平均価格は99円、今は172円ほど(2024年7月27日現在)らしいですから、ガソリン価格は今の6割以下だったことになります。
25年前だから物価が今と違うとはいえ、当時も大卒初任給は20万弱程度で現在の8~9割でしかなく、ガソリン以外の物価も似たようなもんですから、この25年でいかに「給料が上がらず、物価だけ高くなった」がわかる話です。
大卒初任給|年次統計
ガソリン価格|年次統計
モトを取るのにいつまでかかるんだ?と言われたHEV
それだけガソリンが安いと、2024年現在のように「燃費がいいとすごい嬉しい!」「数ヶ月に一度しかガソリンスタンドに行かなくていいからHEVは最高!」なんて話になりません…何しろコンビニで飲み物買うより、ガソリンの方が安いんですから。
灯油はもっと極端で、需要が盛んな冬季だと18リッター2000円超えが当たり前なのが、1999年頃は最安で530円くらい…酷暑でエアコンが当たり前の今なら、石油ファンヒーターなどバカらしくて使えません(エアコンよりすぐ暖かくなるメリットはありますが)。
初代トヨタ プリウスが発売された1997年から、国産HEV第2弾として初代ホンダ インサイトが発売された1999年にかけてのガソリン事情はこんな感じです。
それでも性能や価格が同じような車なら、特にファミリーカーなら少しでも燃費がいい方がありがたいですし、実際に三菱の「GDI」、トヨタの「D-4」(いずれも1996年)と呼ばれた直噴エンジンは、「低燃費と性能を両立した」と、どちらも話題になりました(※)。
(※もっとも初期の直噴エンジンはまだ熟成不足で不具合も多く、当たり前のように使えるようになるのは2000年代半ば以降)
ではHEVがどうだったかというと、初代プリウス発売時の価格は215万円からで、「21世紀にGO(5)」というわけで215万円になったものの、実は売るだけ赤字の戦略価格。
マトモに売っていたら200万円台後半から300万円が妥当なところを、少しでも普及させようと長い目で見た大バーゲンプライスでしたが、それでも当時のトヨタ カローラセダンが約100万~180万円、ターセル/コルサのセダンや約90万~170万円です。
そこから数十万円プラスしてプリウスを買ったところで、当時のガソリン価格だと燃費のよさで差額のモトを取るとしても、10年やそこらでは効かないぞ…となります。
当時は地球温暖化対策なんて、まだそんなに深刻に考えられていませんでしたし、比較要素が「低燃費でガソリン代をいくら安くできるか」だけです。
だから多少ガソリン代が浮いたところで、購入時の初期投資が多すぎるプリウスを買うなんて、お金持ちや意識高い系の環境アピール、とにかく新しい技術を試したいユーザーのオモチャなど、とにかく普通の人は買わないイメージでした。
そう、現在のBEVと近いイメージでして、もし当時XなどSNSが盛んだったならば、「アンチHEV」のアカウントが、HEVユーザーによる快適ライフの投稿を攻撃しまくっていたかもしれません。
メディアも有名人もHEVとしてのスゴさを認めてくれない
自動車メディアすらも、「こんなモトが取れない高い車なんて誰が買うんだ?」という調子でHEVには批判的で、実用性は皆無に近いものの、走りが楽しいインサイトの方がいっそ清々しいとさえ言われる勢いでした。
その論調が変わるのは、ガソリン価格の下落がピークを超えたものの、まだ安値推移だった時期が終わる2004~2005年あたりで、その頃のプリウスは2代目になっていましたから、初代プリウスはついに「逆風」を抜けられないまま終わったことになります(※)。
(※初代インサイトは2006年まで販売していたが、もうあまり話題にならなかった)
筆者にとって印象的だったのは、2000年頃でしょうか…モータースポーツで活躍した某有名人がパーソナリティを努めるラジオ番組に、ゲストでプリウスの開発者が呼ばれた時のことです。
その番組を直接聞いたのは筆者ではなく友人でしたが、曰く「開発者がマジメにコンセプトとかを語っているのに、パーソナリティーは”プリウスカッコイイ!フルエアロ組んで爆音マフラー組んだらサイコーっすよー!”とか、マトモな話をしなかった」と聞いています。
そのパーソナリティの性格や普段の言動を考えるに、いかにもありそうな話でしたが、当時の筆者もエコカーより走行会や競技会で走る方が楽しい人だったので、反感は感じませんでした。
ガソリン代が安くて安くて、コンビニでコカコーラのペットボトルを買うより、ハイオクガソリンを買った方が安いくらいな時代、「燃費がいい」「センターメーター採用」だけで他は実用一点張り、派手な遊びがないのでは最先端のHEVでも売れにくかったのでしょう。
現在のBEVにも「興味がないわけではないけれども、特に国産で魅力を感じる車がそもそもない」という意見も目にしますが、クルマ好きの視点は昔も今もあまり変わらないものですね。
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