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今まで海外に流出していた?中古BEVを安心して買いやすくなるかもしれない話
公開日:2024/11/09更新日:2024/11/09
目次
年間2万台も輸出されてしまっている「中古EV」
中古車情報サイトを見れば、BEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)も中古車がそれなりに出回っているものの、まだ新しいジャンルで新車販売台数も少ないため、普通のエンジン車やHEV(ハイブリッド車)に比べればそのタマ数はかなり少なめ。
それも劣化による性能低下が懸念される走行用バッテリーへの依存度が高いほど値落ちが激しく、エンジン車よりHEVが、HEVよりPHEVが、100%走行用バッテリーで走るBEVなど短期間でガタ落ちする傾向にあります。
そのため、「BEVの中古車市場」はかなり厳しいことになっているようで、民間のシンクタンク&コンサルティング(政策立案や問題解決案の専門家)大手、日本総研のレポートによると、財務省の統計で2023年には2万台もの中古BEVが海外へ輸出されているそうです。
日産 サクラなどヒット車種が出る前の2021年あたりまで、国内のBEV販売台数は2万台程度でしたから、「ほとんどが中古車市場に出回らないまま輸出されている」という見方もできますが、これがただの「売れない車の厄介払い」で済まないのがBEVの難しいところ。
何しろ国内で産出されない(日本でコストに見合った採掘が可能な資源など、今はほとんどありませんが)希少金属が多数「国外流出」していることになります。
短期的には「だからこそいい値で売れた、ある意味で資源の輸出」とも言えますが、何しろもともとは輸入した資源ですから出ていけばそれっきり、何かの事情で輸入が止まれば生産できなくなって、中古車の輸出どころではありません。
EV 電池サーキュラーエコノミー 8兆円市場のゆくえ ― 2050年までの国内市場予測を踏まえ ―(日本総研)
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/2024/0822/20240822_BACE_report.pdf
「人気がないから輸出でいいじゃないか」とはならない理由
国内で人気がないものを輸出してしまえば無駄にもならず、どこかで役立っていいじゃないか…とは普通の不人気車の話ですが、BEVやPHEV、HEVに積まれた走行用バッテリーは、うまく回収すれば使い古しを別な製品でリユース(再利用)できます。
リユースに回せないほど性能が低下したり、リユースでいよいよ寿命を迎えても、リサイクル(廃棄物の有効利用)すれば希少金属でまたバッテリーを作ったり、別な形で活かすことも可能です。
この生産→利用→再利用→廃棄物の有効利用というサイクルを「サーキュラーエコノミー(循環経済)」と言いますが、中古のBEVやPHEV、HEVを輸出して国外流出してしまったのでは、日本国内での循環経済が成立しません。
日本総研のレポートでは、サーキュラーエコノミーによる経済効果は世界で2030年までに約4兆5千億ドル、日本だけでも6,000億円に達し、2050年には約8兆円規模のポテンシャルを秘めているとされています。
つまり「走行用バッテリーを積んだEV(電動車)をただ輸出しているのでは、すさまじい経済的損失である」と同時に、資源が輸入頼りでは安全保障にも大きく関わる問題なので、何とか国外流出を止めねばなりません。
特に走行用バッテリーの容量が大きい割に中古車の値落ちが激しく、輸出に回りがちなBEVなど、早く対策を立てねば大変な事になる、というわけなのですが、この話題は何も最近出た話ではなく、数年前から問題になっていたことです。
日本総研では2020年10月に「BACEコンソーシアム(Battery Circular Ecosystemコンソーシアム)」を設立し、何とか自動車用のリチウムイオンバッテリーの循環構造を確立しようと動いており、2024年も半ばになってようやく、何をすべきか具体化してきました。
車載電池の循環利用モデルに関するコンソーシアムを設立(日本総研)
「電池性能の保証」で、中古EV市場を育成せよ!
そもそもBEVに限らずPHEVやHEVも含め、中古EV全般の値落ちが激しい理由は何かと言えば「使用状況や環境によって異なるバッテリーの品質や性能の劣化状態を、正確に評価できない」のが原因です。
もともと中古車とは、「高価だけにピカピカで新車みたいだと思えばすぐ壊れたり、ボロボロだけど安いからいいかと買ってみれば案外壊れない」など、バクチのような商品ではあるものの、走行用バッテリーはその不確定要素を確実に増しています。
EVに慣れた事業者ならば、走行用バッテリーの状態をキチンと検査し、劣化具合を確かめて中古車情報の備考欄へ掲載しますが、そうした事業者はまだ少なく、検査結果も共有されません。
日本でも10年以上BEVを販売している日産などは、廃車になったBEVのバッテリーを回収・再利用・廃棄物の有効利用といった循環体制をある程度は整えていますが、廃車される前に輸出されてしまったのでは意味なし!
そこで2024年も半ばになって経済産業省が音頭を取り、バッテリーメーカーによる電池の状況診断の共有、損害保険会社が保証期間内に劣化した場合は新品電池か、BEVそのものを同等車へ交換する性能保証保険の商品化、リユースによる他製品への二次利用を促進する政策が始まりました。
つまり、今までなら「価値が残っているのか、もうないのかよくわからないので、誰も買わないから輸出!」となっていた中古のEVにバッテリー保証がつき、寿命を迎えても価値が残りやすいようにすることで、中古EVの売買がしやすくなります。
これなら中古EVにもちゃんと値段がつきますし、リセールバリューが増すなら新車の購入もしやすくなりますし、中古を買ってもすぐ使えなくなる懸念は大幅に減るので中古EVは書いやすくなり、バッテリー再利用のアテがあるので下取りも期待できることになるでしょう。
新車も中古車も買いやすくなればBEVやPHEVの普及にも弾みがつきますし、諸事情でそれらの購入にいたらないユーザーも、HEVやMHEV(マイルドハイブリッド)といった電動車しか新車販売できなくなる予定の2035年以降に困ることはありません。
JUからの提言も期待したい
さらに、中古車といえばJU(日本中古自動車販売協会連合会)の「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会」から2021年4月に出された提言も見逃せません。
そこでは、(トヨタやホンダなどが長年努力してきた経緯もあって)市場価値が安定しているHEVの人気は高いものの、バッテリーの性能評価を正しく行えないBEVの中古車は人気が低い、と断言されています。
他にも「発電方法のカーボンオフセットを同時進行しないと、CO2(二酸化炭素)排出が多い火力発電が主力である限りカーボンニュートラルは無理」など耳の痛い話もありますが、根本的にはなるべく長く自動車を使うのがエコであり理想という、もっともな話も。
ただ、そこでBEVの普及を推進するなら、新車だけではなく補助金や減税/免税を中古車にも実施すべき(※)だし、中古車の市場価値を正しく評価するためにも、走行用バッテリーの適性な評価制度を創設してほしい、という要望も。
(※一部自治体では、中古車にも補助金を出している例があります)
走行用バッテリーの評価制度はこれから始まって中古車のバッテリーにも一定の保証がつくようになっていく見込みですし、サーキュラーエコノミー(リユースやリサイクルを経る循環経済)のための「EV電池スマートユース協議会」も2024年10月に立ち上がりました。
あとはJUが主張するように、中古車も補助金や税制面で新車の数割程度でよいから、何らかの購入助成制度ができると、「新車でお高いBEVも、中古車なら…」というユーザーが増えてくるでしょう。
BEVに限らず、新ジャンルの自動車を普及させるには中古車がバンバン出回り、ある程度は安心して買えないと「食わず嫌いの偏見」ばかり増えてしまいますから、早く中古車を安心して買えるようになり、気楽にいろいろなBEVを試せる世の中になってほしいものです。
カーボンニュートラルに向けた中古自動車販売について(日本中古自動車販売協会連合会)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/carbon_neutral_car/pdf/003_04_00.pdf