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歴史は繰り返す?!今のBEVと同じように否定されていたHEVが受け入れられるまで(2)

初期にガソリンが2020年代より格段に安かったり、信頼性でネガティブなイメージもあって普及がままならなかったHEV(ハイブリッドカー)ですが、先駆者のトヨタ プリウスとホンダ インサイト以外で2000年代前半にはさまざまなHEVが登場しました。今回はHEVの普及に挑んだ、初期の実験的な車種を紹介します。

目次

  1. 日産 ティーノハイブリッド(2000年)
  2. ホンダ シビックハイブリッド(2001年)
  3. トヨタ エスティマハイブリッド(2001年)
  4. トヨタ クラウンロイヤルサルーンマイルドハイブリッド(2001年)
  5. トヨタ クラウンセダンマイルドハイブリッド(2002年)
  6. スズキ ツインハイブリッド(2003年)
  7. ダイハツ ハイゼットカーゴハイブリッド(2005年)
  8. 期待とは裏腹に技術やコンセプトが追いつかない、初期のHEV

日産 ティーノハイブリッド(2000年)

HEVでトヨタとホンダに出遅れた日産ですが、ベース車としてマーチなどを検討したものの「後発だから他にない車種を」、また法人ユーザーから積載性の高いHEVの要求があり、1999年12月発売の3人がけ2列シート6人乗りミニバンをHEV化し2000年3月発売。


同年4月に追加される前席2人がけ5人乗り仕様がベースとなったため、ミニバンではなくコンパクト・トールワゴンのHEVとなりましたが、2000年発売モデルとしては画期的なリチウムオンバッテリーを床下に搭載し、要求通り広大なラゲッジも実現しました。


走行/回生用と発電用を分けた2モーター式で、発進から低速までEV走行を可能にしながら駆動系にCVT(無段変速機)を採用し、エンジンでもモーターでも効率のいい走行を可能にした、トヨタのTHSともホンダのIMAとも異なる「NEO HIBRID」システムを採用。


ただし、残念なことに日産の経営悪化と、フランスのルノー傘下入りして再建が始まったばかりというタイミングもあり、インターネットからの予約でわずか100台限定という、実験的な販売に留まりました。


その後の日産はトヨタからTHSシステムの供給を受けた北米向けの「アルティマハイブリット」を除けば、電気自動車のリーフや、外部充電から搭載エンジンでの発電へ切り替えた「e-POWER」採用のHEVへ転換し、ティーノのようなHEVは以後作られていません。

ホンダ シビックハイブリッド(2001年)

初代インサイトではプリウスを上回る燃費スペシャルに徹したホンダですが、そのハイブリッドシステム「IMA」を1.3リッターエンジンと組み合わせて4ドアセダンのシビックフェリオ(ES系)に搭載、より実用的なモデルとしたのがシビックハイブリッド。


だいぶ大柄になってHEV専用車ではなくなったものの、それでも発売当時の10・15モード燃費29.5km/Lはプリウス(初代10系)を上回っており、高効率エンジンとモーターアシストだけでプリウス以上の低燃費HEVを作ったのは立派なものです。


2005年に2代目(8代目シビックセダン)ベースへモデルチェンジすると新型の3ステージi-VTECエンジンの気筒休止モードでEV走行も可能になり、一時はタクシーでもよく使われ、日本では2010年に5ドアセダンのインサイト(2代目)に交代するまで販売しました。

トヨタ エスティマハイブリッド(2001年)

プリウスに続くトヨタ第2のHEVは、1999年発売の2代目からFF化していたミニバンの「エスティマ」がベースで、「THS-C」と呼ばれたハイブリッドシステムは、初代プリウスの「THS」や、その後に登場し現在まで改良を続けながら使われる「THS II」ともまた別物。


2つのモーターとエンジンを動力分配機構で協調制御するTHS / THS IIと異なり、エンジンと発進~低速時用のアシストモーターを切り替えCVTを通し前輪駆動、さらにリアモーターを追加した電気式AWD「E-Four」化するなど、プリウスと異なる意味で先進的でした。


HEVとしての効率は今ひとつなのか、THS-Cの採用はこのエスティマハイブリッド(2代目ベース)と初代アルファードハイブリッドのみで、その後のモデルはTHS IIになります。


また、当時としては珍しくAC100V・1500Wコンセントを採用しており、東日本大震災(2011年)の大規模停電時に「家電も使える」と注目されたのは、今ではBEVやPHEVでも重要となっている大容量の外部給電機能、V2H(Vehicle to Home)/V2L(Vehicle to Load)の先駆けでした。

トヨタ クラウンロイヤルサルーンマイルドハイブリッド(2001年)

エスティマハイブリッド(2代目ベース)のTHS-Cでも使ったベルト駆動式スターターモーターを応用し、スターターモーターによる発進とエンジン始動、エネルギー回生までこなす「THS-M」システムを積んだ、国産初のMHEV(マイルドハイブリッド車)。


プリウスのTHS、エスティマハイブリッドのTHS-Cと3種類のハイブリッドシステムが同時に混在していたこの時期は、トヨタもHEVでさまざまな方法を模索していたわけです。


11代目(S170系)クラウン ロイヤルサルーンの3リッター車に設定したTHS-Mは、現在までトヨタのハイブリッドシステムとしてもっとも簡素ですが、高価な割にモーターアシスト領域が限られEV走行もできずコストパフォーマンスが悪いとされ、短命に終わりました。

トヨタ クラウンセダンマイルドハイブリッド(2002年)

主にタクシーや教習車向けな「コンフォート」系の最上級車種で、タクシーやハイヤー向け上級モデルとされたクラウンセダン(2001年)にも、2002年に2リッター直6エンジン1G-FEと組み合わせるTHS-M搭載車が設定されました。


法人ユーザー向けでもMHEVを設定してみようという試みでしたが、やはり需要が少なかったか2008年で販売を終了、その後トヨタが少なくとも国内向けでMHEVを販売することはなく、タクシー向けHEVもJPNタクシー(2017年)まで一旦途絶えています。

スズキ ツインハイブリッド(2003年)

メルセデス・ベンツ系(当時はダイムラー系)のMCC スマートフォーツーに触発された2シーターマイクロカーのひとつ、スズキの軽乗用車「ツイン」には、発売時からユニークなHEVが設定されました。


ハイブリッドシステム自体は、純エンジン車のパワートレーンに走行/回生用モーターを割り込ませたホンダIMAと同様で、EV走行ができない簡素なものですが、純エンジン車の3速ATと異なり4速AT、HEVとしては軽い車重730kgで10・15モード燃費32.0km/Lと優秀。


面白いのは後部にギッシリ敷き詰められた、二輪用の12V鉛バッテリー16個(直列8個×2)による走行用バッテリーで、低コストで必要最低限のシステムを再構築してしまおうという、いかにもスズキらしい発想です。


それでもエアコンやパワステを装備したエンジン車の上級グレード「ガソリンB」(84万円)より50万円以上高価な139万円もするモデルになってしまい、ガソリンがまだ安い時代に、短距離用途のシティコミューターではなおさら低燃費だけでは元が取れません。


4速ATやモーターアシストのおかげで、発進加速から高速巡航まで高い水準にあったツインハイブリッドですが、スズキの軽自動車は高効率エンジンにISG(モーター機能つき発電機)を組み合わせて低燃費を狙う、より簡素なMHEVへと発展していきました。

ダイハツ ハイゼットカーゴハイブリッド(2005年)

開発自体は熱心に行っていたものの、2020年代にコンパクトSUVの「ロッキー」でスマートHVを追加するまで本格的なHEVをほとんどラインナップしなかったダイハツが、2000年代に唯一発売したHEVが、軽商用1BOX車のハイゼットカーゴハイブリッド。


9代目ハイゼットカーゴでLPG車やCNG(天然ガス)車を設定するとともに、関西の商業界から要望を受けてHEV版の開発に着手、2002年から地方自治体などでモニター走行など実証実験を進めた後、2004年にモデルチェンジした10代目にHEV版を設定しました。


コスト削減のため、親会社トヨタのエスティマハイブリッドから部品を流用したので、走行用バッテリーこそニッケル水素でしたが、初期のホンダやスズキと同様、駆動系の途中に仕込んだ走行/回生兼用の簡素な1モーター式でした。


短距離での発進/停車/再発進を繰り返す商用車らしく、発進加速から低速域のモーターアシストに特化しており、回生性能を強化して電欠を防ぎつつ、アイドリングストップも採用して市街地での燃費向上を実現していますが、問題はやはり価格です。


ハイゼットカーゴの純エンジン版が、最上級の「クルーズターボ4WD」でも138.6万円という時期にHEV版は221.5万円と80万円以上高くなってしまっては、ユーザーに望まれた「低燃費な商用車でコストダウン」など実現不可能でした。

期待とは裏腹に技術やコンセプトが追いつかない、初期のHEV

期待とは裏腹に技術やコンセプトが追いつかない、初期のHEV

2000年代は日産、スズキ、ダイハツも果敢にチャレンジしてみて、さらにトヨタやホンダも新方式を試した2000年代前半のHEVですが、そのほとんどは高価な実験的販売に留まり、「期待されたようなHEVを作ることの難しさ」を痛感しただけで終わりました。


ただし失敗してそれっきりというより、実験的なHEVを経て各社が自分たちの強みを生かした車づくりへ立ち返るキッカケになったのは確かでしょう。


結局はトヨタがプリウスで使った「THS」がハイブリッドシステムの本命となり、ホンダも「IMA」を熟成させつつ新たなシステムへ取り組んでいき、日産や三菱はBEVの市販化へ活路を求めていきます。


ただ、そうやってメーカーが必死に取り組むのを見ていたユーザーとしては、シビックハイブリッドやエスティマハイブリッドを除き、「売れそうもない珍車が、まあ次から次へと出るなあ」という無責任な感想を抱いていたものです。


2000年代前半、HEVとは相変わらず「そのうちモノになるかもしれないけど、今すぐ買う必要は特にない未来の車」で、それからわずか数年で当たり前の存在となり、2020年代に「HEVがあればBEVなんていらない!」と言われるなど、全く信じられませんでした。

著者プロフィール

【兵藤 忠彦】 宮城県仙台市在住のフリーランスライター。モータースポーツに参戦していた経歴は全てダイハツ車という、自動車ファンには珍しいダイハツ派で、現在もダイハツ ソニカを愛車として次の愛車を模索中。もう50代なので青春時代を過ごした1980〜1990年代のクルマに関する記事依頼が多いものの、自動運転やEVといった次世代モビリティでも楽しめるはず!と勉強中です。

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    かつては日本第2位の自動車メーカーであり、自他ともに求める「技術の日産」として、真剣なクルマ選びに値する玄人好みのクルマがユーザーに支持される日産自動車。フェアレディZやスカイライン、GT-Rといった歴史と伝統を誇るV6DOHCターボエンジンのハイパワースポーツをイメージリーダーとして大事にする一方、2010年に発売したリーフ以降、SUVのアリア、軽自動車のサクラなど先進的なBEVをラインナップ。さらにエンジンを発電機として充電いらず、従来どおり燃料の給油で乗れる「e-POWER」搭載車を増やしており、モーターのみで走行するクルマの販売実績では、日本No.1の実績を誇るメーカーでもあります。
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    現存する日本の主要自動車メーカーでは1960年代に最後発で四輪へ進出、大手の傘下に入ることもなく独立独歩で成長したホンダ。初期のスポーツカー「S」シリーズやF1参戦でスポーツイメージが強い一方、初代シビックの成功や、可変バルブ機構を採用した高性能なVTECエンジンで実用的かつスポーティな大衆車メーカーとして発展、1990年代にはミニバンのオデッセイやステップワゴン、SUVのCR-Vをヒットさせ、2010年代には軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」の大成功で軽自動車ブームの中心になっています。先進技術の開発にも熱心で、ハイブリッドカーやBEVなど電動化、運転支援システムの実用化にも積極的。

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    常に世界の最多生産台数を争い、日本のみならず世界を代表する自動車メーカー、トヨタ。多くの日本車メーカーと深い関わりを持ち、グループ全体で超小型車からバス・トラック、産業車両まで網羅したフルラインナップ・メーカーであり、近年は実用性やコストパフォーマンスのみならず、スポーツ性など走る楽しみにも力を入れています。世界初の量販ハイブリッドカー「プリウス」から電動化技術では最高の蓄積を持ち、自動運転技術の実用化、新世代モビリティと都市生活の在り方を模索する「ウーブン・シティ」へ多大な投資を行う一方、電動化だけがエコカー唯一の選択肢ではないというスタンスも崩さず、死角のない全方位戦略が現在の特徴です。

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