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電気自動車は今後増える?日本と世界の普及率に関する将来予測
公開日:2024/05/13更新日:2024/05/13
目次
電気自動車の普及が世界的に加速している背景
電気自動車(EV)の普及が進んでいると言っても世界的な話で、日本ではピンと来ませんが、その背景には3つの要素があります。
- 2010年頃に実用的な電気自動車、三菱 i-MiEVや日産 リーフが登場した。
- 2015年に独フォルクスワーゲンが排ガス検査で不正をしていた「ディーゼルゲート事件」の発覚以降、ヨーロッパが急激に電気自動車へシフトした。
- 内燃機関を搭載する自動車生産の歴史が浅い新興国を含め、将来的な産業育成策。
上記を念頭に、世界的な電気自動車への流れと日本の温度差を把握しつつ、将来の予測を考えてみましょう。
日本の電気自動車の普及率は世界的に後れをとっている
電気自動車(EV)の世界保有台数は2022年に2,500万台を超え、伸び悩む日本を尻目に急速に増加している中国、ヨーロッパ、アメリカでそれぞれの普及率を見てみましょう。
日本の電気自動車の普及率
日本の2023年における乗用車新車販売台数で電気自動車が占める割合ですが、軽自動車を除く登録車では4万3991台でシェア1.7%、前年比139.2%でシェアも0.3%伸びているとはいえ微々たるもので、しかも半分以上の2万2,848台が輸入車で国産車は本当にごくわずか。
ただし2023年の明るい材料として、軽自動車は日産 サクラと三菱 eKクロスEVが合計44,161台で前年(26,062台)から約172%と大幅に伸ばしており、軽4輪乗用車の総販売台数に対するシェアは約3.3%(前年約2.1%)とはいえ、登録車より状況は良いです。
特に2023年に37,140台を販売して「日本で一番売れている電気自動車」であるサクラが、電気自動車の普及を後押ししています。
日本自動車販売協会連合会|燃料別販売台数
全国軽自動車協会連合会|統計資料
アメリカの電気自動車の普及率
アメリカでは同国の電気自動車専門メーカー「テスラ」が好調で販売台数を増やし続ける以外にも市場で流通するモデルの台数が増え、バイデン政権がEV普及政策を推進していることを背景に、電気自動車の普及率は増加傾向です。
電気自動車(燃料電池車を含む)の2022年販売台数は93万7,094台、全販売台数の6.7%と2021年の4.1%から大幅にシェアを伸ばし、最大の牽引役はテスラ(52万2,444台で前年比48.2%増)をはじめとする81万466台の電気自動車に間違いありません。
さらに米国勢ではフォードやGM、輸入車ではヒョンデやキアといった韓国勢が新型を続々投入して2022年の電気自動車モデル数は54に達し、ユーザーの選択肢増加も普及率が伸びている要因です。
日本貿易振興機構(ジェトロ)|2022年米新車市場と2023年見通し(後編)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/2051865300b80d0d.html
ヨーロッパの電気自動車の普及率
EUの電気自動車新車登録台数は2022年に約112万4,000台(前年比28.0%増)で全体に占める割合も12.1%と、2023年には100万台を超えと言われるアメリカより一足早く年間100万台、シェア1割超えを達成しました。
さらに2023年に154万台(前年比37.0%増)、シェア14.6%と伸び、ついにディーゼル車を抜き、ガソリン車、ハイブリッド車に次ぐ燃料別シェア3位に浮上しています。
ただし事情はEU内でも国によって異なり、ドイツで電気自動車の購入助成補助金制度が1年前倒しの2023年末で廃止、フランスでも安価な東欧製や中国製の電気自動車は助成を打ち切るなど、EU全体の53%を占める両国の政策変更で普及率に変化があるかもしれません。
日本貿易振興機構(ジェトロ)|EUの2022年の新車登録台数、BEVが初めて100万台超え
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/02/9506f0fd1b5dc0f1.html
日本貿易振興機構(ジェトロ)|EUの2023年の乗用車新車登録台数、4年ぶり前年比プラス、BEVがディーゼル超え
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/01/07b5ab41aec7bd9f.html
日本貿易振興機構(ジェトロ)|経済・気候保護省、低排出ガス車購入時の助成制度の1年前倒し終了を発表(ドイツ)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/3c8ae8818a59f100.html
中国の電気自動車の普及率
中国の電気自動車新車販売台数は2022年に536.5万台(前年比81.6%増)で約20.0%、2023年には668.5万台(前年比24.6%増)で約22.2%と、販売台数もシェアも大幅増加で普及が進んでいます。
中国はプラグインハイブリッドや燃料電池車を含むNEV(新エネルギー車)のシェアを2025年に20%以上(うち電気自動車90%以上)、2030年には40%以上(同93%以上)、2035年には50%以上(同95%以上)としていますが、電気自動車だけで達成済み。
背景にはメーカーに厳しい燃費規制や、電気自動車を一定割合の販売するよう指導が行われ、達成できないとクレジットを購入せねばならない事情があり、各メーカーは必死です。
MARKLINES|自動車販売台数 中国 2022年
https://www.marklines.com/ja/statistics/flash_sales/automotive-sales-in-china-by-month-2022
MARKLINES|自動車販売台数 中国 2023年
https://www.marklines.com/ja/statistics/flash_sales/automotive-sales-in-china-by-month-2023
MARKLINES|中国省エネルギー車・NEV技術ロードマップ2.0:グリーン社会に向けて炭素排出量を抑制へ
日本で電気自動車の普及率が低い理由と今後の課題
世界的な電気自動車(EV)の普及率増加に対し、かなりの温度差がある日本ですが、それには相応の理由があり、今後の課題にはどのようなものがあるかを以下で説明します。
日本の国情に合ったハイブリッド車の存在
電気自動車を日本で普及させるうえで最大のハードルは、1997年の初代トヨタ プリウス発売以来、多数の車種に設定され価格も手頃、爆発的に増えたハイブリッド車。
都市間交通が盛んで制限速度が高い海外では大都市部に需要が限定されますが、慢性的な渋滞が多い日本では、低中速域で効率の良いハイブリッド車が最適です。
一時に比べればだいぶ高いとはいえ、ヨーロッパよりガソリンは安いうえに給油はさほど必要なしと、これだけ国情にマッチした乗り物があれば、よほどのメリットを見出さない限り高価な電気自動車へ乗り換えようという流れはそうそう起きません。
独自の充電器規格がガラパゴス化したうえ普及しない
長らく世界各国でバラバラだった充電器の規格ですが、北米がテスラのNACS、ヨーロッパはCCS2、中国はGB/Tで標準化されつつあり、将来は国連でどれかが世界標準になりそうですが、日本ではCHAdeMO(チャデモ)という独自規格がメイン。
いずれ海外メーカーから非関税障壁扱いされて消えそうなCHAdeMOでは、事情を知る人ほど現時点で充電器の設置には二の足を踏んでも仕方のない状態です。
高出力の急速充電器設置にも規制があり、最新の大容量バッテリーを積む電気自動車を購入しても充電時間が長いなど、インフラ面で電気自動車に不安を感じるユーザーの懸念を払拭するのは、まだこれからです。
とにかくネガティブなイメージの払拭が先決
ハイブリッド車や軽自動車で十分エコですし、充電器が普及しないから普及するほど充電できずに困り、冬季の大雪で長時間にわたる立ち往生に巻き込まれたら、暖房でみるみるバッテリー残量が減って不安です。
それだけリスクがあるうえ、「ハイブリッド車や環境性能が優秀なエンジンを作れないヨーロッパが、また自分たちの有利なようにルールを書き換えた!」という不満すらあります。
こうした電気自動車に対するネガティブなイメージを、ひとつひとつ丁寧に払拭していかねばならないのが、日本での電気自動車普及における課題と言えそうです。
今後は日本でも電気自動車が普及するのか
それでも日本で電気自動車が普及するために、大きなヒントとなる車種が、2022年6月に発売された軽乗用車、日産 サクラと三菱 eKクロスEVです。
実用的な性能を持つ電気自動車が補助金込みなら200万円以内から購入できると大変な話題となり、特にサクラは「日本で初めてヒットした電気自動車」と言えるほどの人気でした。
サイズや想定される用途、価格が日本の国情に合っていれば、電気自動車が日本で普及する可能性があることを、この2車種は証明してみせたのです。
さらに軽商用車やトラックなど、業務用車両でも電気自動車の導入や新型車の登場が相次いでおり、仕事で扱いに慣れたドライバーが、プライベートでも電気自動車を検討する機会が今後は増えるかもしれません。
電気自動車の今後の価格はどうなる?
電気自動車の価格とはバッテリーとインバーター、モーターの性能や耐久性、必要とされる資源、量産体制に大きく左右されます。
高性能で耐久性の優れた製品を、希少資源を入手しやすい国が作るか、希少資源をなるべく使わず作り、大規模に量産すれば価格が下がるのは間違いありません。
ただし、全固体電池に代表される次世代電池の大量生産が軌道に乗るのは早くて数年先、インバーターやモーターの高性能化、効率化、耐久性の確立もこれからで、資源など政治的綱引きもあって流動的です。
メーカーも普及のため利益が少ないので価格はまだ下がりにくく、電気自動車の普及を後押ししたい国や自治体の補助金頼りがしばらく続きそうで、むしろ用途によって性能を妥協できる、商用車や軽自動車、超小型車で安価な電気自動車が増えるでしょう。
日本における電気自動車の普及率向上に関する取り組み
従来と本質的に異なる自動車であるがゆえに、メーカーの努力だけでは普及率が上げられない電気自動車(EV)ですが、日本でも社会全体の目標としてさまざまな取り組みが打ち出されています。
普及への数値目標を定めた、国のグリーン成長戦略
電気自動車とは地球温暖化対策のためにとられる手段のひとつであり、日本でも国が2050年までに全体として温室効果ガスの排出をゼロにする政策として、さまざまな産業で「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を推進しています。
電気自動車関連では、主に以下のような数値目標を設定しました。
- 2035年までに乗用車の新車販売で電動車(ハイブリッド車なども含む)100%を実現。
- 2030年までにガソリン車並みの利便性を実現すべく、公共用急速充電器を含む充電インフラ15万基を整備。
そのほか、導入支援や買い替え促進など、電動化推進に向けた施策パッケージを展開していきます。
経済産業省|2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/index.html
脱炭素社会の実現へ向けたGX推進法と大量投資
もちろん、単に数値目標を設定しただけではいけませんから、脱炭素社会を実現しつつ経済成長も両立するためGX(グリーントランスフォーメンション)投資を推進すべく、2023年5月に「GX推進法」を国会で成立させました。
いくつかの政策推進を容易にする法律ですが、特に電気自動車関連に大きく影響しそうなのは脱炭素事業に用途を限定した国債の一種、「GX経済移行債」の発行で、集めた資金は電気自動車のメーカーやユーザーへの補助にも当てられるはずです。
2023年度から2032年度までの10年間で20兆円規模を発行するとしており、電気自動車の普及率向上に関する施策にとっても、かなりの大型財源になるでしょう。
経済産業省|「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」が閣議決定されました
https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230728002/20230728002.html
東京都のZEV普及プログラムなど自治体の取り組み
国だけではなく、予算に余裕があって公共交通への転換が容易な大都市や、魅力的な街づくりや観光振興を目的とした自治体でも、電気自動車の普及率を向上させる取り組みが進んでいます。
代表的なのは世界を代表する大都市を自負しており、公共交通や自転車などの利用を促す環境整備や、都市機能を維持する車両のゼロエミッション化を掲げる東京都です。
世論調査から都民の不安を把握するや、2030年の政策目標として電気自動車関連では以下を打ち出しました。
- 事業者や市区町村への設置を支援するなど、公共用急速充電器1,000基の設置。
- 独自の補助金を出すなどして、都内乗用車新車販売台数の50%をZEV化。
今後は日本でも電気自動車が普及する見込み
これまであまりにも優れたエコカーを作り、しかもそれが日本の国情によく適合していたおかげで、電気自動車(EV)を普及させる取り組みで大きく遅れを取った日本。
しかし、モーターアシストで効率良く走る電動車を、長年作り続けてきた技術は伊達ではありませんし、そもそもリチウムイオン電池を使った本格的な量産電気自動車を発売したのも日本が先ですから、実績ではひけを取りません。
今後はより普及に適した電気自動車が登場し、インフラ整備の準備が整い次第、かつて一斉にエコカーを普及させた時のように、爆発的に電気自動車の普及が進む可能性は極めて高いのです。
機が熟した時のため、ユーザーとして必要な情報収集は着実に進めていきましょう。