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ボルボ、2030年のEV専業撤回!重要な決断の「根本的な理由」と、それでもEV専業へと進む根拠とは?
公開日:2024/11/07更新日:2024/11/07
目次
ボルボの目標は、どう変わったのか?2021年宣言との比較
2024年9月6日にボルボが発表した、「ボルボ・カーズ、電動化の目標を調整 完全なEVメーカーになる将来へのコミットメントは維持」というプレスリリースは、BEVに対して推進派、否定派いずれにとっても「激震」といえる内容でした。
ジャガーやロータスのようにユーザー数が限られる高級車メーカーならともかく、プレミアムブランドと言っても基本的には量販車メーカーであり、その中でも順調にBEVをリリースしてきたボルボが目標変更、それも後退と受け取れるだけになおさらです。
しかしプレスリリースでは同時に「長期目標で完全なEVメーカーになることに変わりはない」ともしており、あくまで中期目標、つまり途中経過のロードマップに小変更を加えるだけともいえます。
あとは受け取る側の立場の問題で、BEV推進派は「現実路線でむしろ長期目標達成を確実にするための調整だ」と考えますし、BEV否定派は「これを契機に他社も続けばBEVはやっぱりダメだという証明になる」と考えるものです。
実際にボルボは今後どうなっていくのかを考えるには、まず2021年3月3日に同社が宣言したプレスリリース「2030年までにすべてのボルボ車をEVへ」との比較が必要でしょう。
2021年3月の宣言 | 2024年9月の見直し | |
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2030年までに達成すべき目標 | 完全に電気自動車メーカー化 | 世界販売台数の90~100%を電動化車両(BEVとPHEV)として、残り0~10%はマイルドハイブリッド車を販売 |
2025年までに達成する世界販売比率 | 電気自動車が50%、残りはハイブリッド車 | 電動化モデル(BEVとPHEV)が50~60% |
その他 | - | 2040年までに温室効果ガス排出量をネットゼロ化 |
2030年までにBEV専業メーカーとなる予定から、90~100%を「PHEV(プラグインハイブリッド)を含む電動化車両」、残りは最大10%までMHEV(マイルドハイブリッド)の販売を継続し、温室効果ガス排出ゼロ化は2040年へと後退しているのは確かです。
また、2025年に世界販売の50%をBEV、残りはハイブリッド(ボルボの場合はPHEVとMHEV)とする予定が、「PHEVを含めて50~60%」、つまり残り40~50%はMHEVを継続し、BEVの販売比率には言及しなくなりました。
2025年といえばもう来年の話ですが、2024年第2四半期にはBEVとPHEVという「電動化車両」のシェアが48%に達している一方、BEVのみでのシェアは「26%に達し」というレベルに留まっているので、今のうちに現実的な目標へと修正したことになります。
順調に拡大しているボルボのBEVラインナップだが
「2030年にBEV専業メーカーとなります!」と宣言してからわずか3年半で、中期目標の達成困難から軌道修正したボルボですが、日本でも好調の電動コンパクトSUV「EX30」の販売は好調です。
電動小型SUVのEX40(旧名XC40 Recharge)やEC40(旧名C40 Recharge、ただし日本では改名せず継続販売中)は、それぞれXC40、C40から独立した道を歩もうとしており、電動MPVのEM90に加え、電動フラッグシップSUVのEX90(いずれも日本導入未定)もデリバリーを開始したばかり。
さらにEX40とEX90の中間となる電動ミドルクラスSUV、「EX60」のデビューも控えており、同社のBEVラインナップは順調に厚みを増していると言えます。
ただその一方でミドルクラスSUV、XC60のPHEV版が販売好調であることも2024年9月のプレスリリースでは言及しており、「現状ではBEVにPHEVも加えた”電動化車両”の好調をアピールしたい」という意図もありそうです。
本来ならEX30、EX40、EC40、EX60、EM90、EX90とズラリ揃えた電動SUVや電動MPVで、2025年に世界販売の50%をBEV化するはずでしたが、PHEVにシェアを食われている現状は、なぜ起きたのでしょうか?
この3年半で一体何があったのか?2つのポイント
ボルボの中期目標変更で最大の要因となったのは、一言で言うなら「BEVの普及があまりにも好調すぎたのが原因」かもしれません。
もちろんBEV否定派としては「世界的なBEV販売の失速が原因だろう!」と言いたいのはわかるのですが、それはなぜ?とさらに深堀りしていかないと、本当の原因にたどり着かないように思えますから、以下の2つのポイントをまず抑えてみましょう。
BEV増加にインフラが追いつかず、補助金も打ち切られ始めた
ボルボが2024年9月のプレスリリースで触れている、「中期目標変更の原因」のうち、前半では「充電インフラ整備が予想以上に遅れ」、「一部市場で政府の優遇措置が打ち切り」としています。
この2つは一見して無関係、あるいはBEVが歓迎されていないと受け取る事もできますが、実際には「BEVの増加に見合った充電インフラ整備が間に合わない」、したがって「BEVを急激に増やしても混乱を招く」という判断が根底にありそうです。
BEVと充電インフラは「卵が先か、ニワトリが先か」(2つの関連する事柄で、どちらを優先して原因と考えるか迷う状態)の典型例で、BEVだけ増やしても充電インフラが足りなければ走れませんし、充電インフラだけでBEVが増えなければ遊休設備が増えて無駄。
日本でも「充電スタンドが足りない!」と言ったかと思えば、「誰も使わない充電スタンドが消えた」と言われますが、過疎化や過当競争でガソリンスタンドが潰れるのと同じで、需給バランスが取れないインフラやその利用対象は淘汰されたり、伸び悩むのが当たり前です。
ヨーロッパでも日本と同様、急激な進化で早くも時代遅れになったり、思うように利用されなかった充電インフラが撤去される一方で、BEVが急激に増加した地域では更新や新設が間に合わなかったり、電力そのものが供給不足に陥る懸念があると考えられます。
それなら闇雲にBEVを増やしても批判ばかり増え、BEVそのもののイメージダウンを防ぐために優遇政策(補助金や減税)の打ち切りとなるのは当たり前で、日本でもいずれ同じことが起きかねません(トヨタがBEVの国内販売に熱心ではない理由でもありそうです)。
急増する安価な中国製BEVへの関税引き上げ
急激なBEV増加にインフラ整備が追いつかない、補助金打ち切りの要因としては、安価な中国製BEVの大量参入も見逃せません。
たまりかねたようにEU当局は「中国製BEVは中国政府から多額の補助金を得ているから安く作れるのだ」という理由で、中国からのBEV輸入にかかる関税を大幅に引き上げることを決めており、2024年10月30日から正式に発効することが決まりました。
「中国製BEV」と言っても、EU内の自動車メーカーは多くが中国に工場を構え、安くBEVを作ってはEUに輸出している現状もあって、BYDなど中国メーカーだけの話ではありません。
実際、ボルボも中国製BEVを輸入していましたから(好調のEX30も中国製です)、EU当局の動きを見て少なくともEUで販売する分はベルギー工場への生産移転を決めていますが、今後は中国製にせよ、人件費の高いEU製にせよ、BEVの値上がりは不可避でしょう。
EU内のメーカーは、東欧に生産拠点が多いステランティス系やルノーグループを除くと中国工場への依存度が高く、また最終組み立ては中国でも、EUメーカーから中国へ多数の部品を輸出していた関係上、EUは自らの首を締めていることにもなります。
さらに、日本でも国からのCEV補助金があり、さらにEU内でも国によってBEVへの優遇措置打ち切りが問題になっているように、多額の補助でBEVを推進しようとしたのはどこでも同じ。
実際は「電力やインフラ整備に合わせてBEVの急増を絞る必要性が出てきた」とも考えられるわけで、BEVを増やしてもいい環境が整えば、優遇措置の再開も中国製BEVの関税引き下げも問題なくなります(それまでEUの自動車メーカーがもてばよいのですが)。
政府の政策次第なものの、ボルボの完全EV専業は変わらず
ボルボの2024年9月プレスリリースでは、「電動化への移行を支援するため、より強力で安定した政府政策が必要」、つまりEU当局や各国政府による電力や充電インフラ整備の推進を求めつつ、「市場の条件が整えば、いつでも完全な電動化に移行できる」としています。
ボルボはあくまで自動車メーカーの1社に過ぎず、インフラ整備はこれまでBEVを推進してきたEUや各国政府の仕事ですから、やるべき組織が、やるべきことをしてくれればいつでもBEV専業でイケます!と宣言しているようなものです。
むしろこれまで調整が取れないままBEVを推進してきた当局への恨み節とも取れますが、「いつでも準備はできている」と宣言している以上はボルボ自身の問題ではなく、BEV専業がいつになるかはEU当局や各国政府が適切な対応を取る時期次第という話になります。
これはボルボに限った話ではありませんし、日本でもいつかは直面するかもしれない問題ですから、他人事とは思えませんね。
ひとつ言えるのは、「ボルボの目標後退はボルボだけの話でも、EUだけの問題でもなく、世界がどれだけ環境問題へ真剣に取り組んでいるかが試されており、その試練の一部が表面化した形」だということでしょう。
そもそも、「急にBEVが増えても充電や、そのための電気はどうするの?」というのは誰もが思いつく話であり、競争するかのように急ぐより、目標へ向けてなだらかで現実的なカーブを描くよう、中間の過程を修正していくのが必然というものです。
このブランドについて
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VOLVO
ボルボ
スウェーデンのボルボは、1980年代後半から日本でも走行性能や安全性能に秀でたスタイリッシュな北欧系メーカーとして高い評価を受けるようになり、レースでの活躍やステーションワゴンブームの火付け役、衝突安全性能といった面で日本の自動車メーカーにも大きな影響を与えました。21世紀に入ると環境問題に敏感な国情も反映してHEVやPHEVなど電動化技術でも他の欧米系メーカーとは一線を画すほど熱心に取り組み、2020年代はじめに全車種の電動化を終えると、続けて2030年代には全車種のBEV化を宣言しました。派手なパフォーマンスよりも「シンプルにより良く安全に」という姿勢に好感を持つユーザーも増えています。