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歴史は繰り返す?!今のBEVと同じように否定されていたHEVが受け入れられるまで(6)
公開日:2024/09/14更新日:2024/09/14
目次
日本とは異なり、HEVが歓迎されなかったヨーロッパ
2024年現在、まだまだ「BEVはいらない!」という声も多い日本ではありますが、HEVも理由は異なるものの不要とされ、しかし環境の変化や技術の進歩で2010年頃を境に流れが変わり、今や「HEVがあればいい」とまで言われています。
EUなどヨーロッパ諸国の場合、今でも速度無制限区間が残るアウトバーンで日本だと考えられないような超高速巡航性能が求められたり、日本よりもガソリンが高価なため軽油で走れるディーゼル車が重宝された歴史もあるので、近年までHEVは歓迎されませんでした。
一応、EU諸国のメーカーもHEVを作るのですが、市街地だけEV走行でアウトバーンはぶっ飛ばせる仕様だったり、発進時のモーターアシストだけでいいMHEVが主流と思われた時代も長かったのです。
一応、EU当局は1990年代はじめからユーロ1に始まる排出ガス規制を段階的に厳しくして2024年の今はユーロ6、2028年以降はユーロ7へと強化されますが、1970年代に日本の自動車メーカーが必死に対策へ取り組んだマスキー法や昭和53年排ガス規制がありません。
もちろん北米や日本向けなど「輸出仕様」はしっかり対策していましたが、自分たちが乗る分はスペックダウンは嫌、もしくは大衆向けはディーゼルエンジンが主流で、トヨタなどもヨーロッパ仕様はプジョーのディーゼルを積んでいたのを知っている人も多いでしょう。
ヨーロッパでは他にも、日本では急速に普及したAT(オートマ)のガソリン車が特に燃費が悪いと大衆車で歓迎されず、低速トルクが太いディーゼル車を、伝達ロスが少なく燃費のいいMTやセミATで乗るのが主流など、とにかく日本の自動車文化とは違いすぎました。
一時はクリーンディーゼルで盛り上がるも、ディーゼルゲートでバッサリ
1970年代の石油危機(オイルショック)で、日本は一旦スポーツカーを放り投げてまで排ガス規制以外にも低燃費化など環境対策に取り組み、やがて環境性能と動力性能を両立する優秀なガソリンエンジンを開発しますが、それがヨーロッパだとディーゼルでした。
ヨーロッパでは、石炭を利用した産業とともに北欧などで猛威をふるった酸性雨の原因とされた後も軽油への税制優遇からのディーゼルエンジンは廃れず、厳しい規制をクリアした(はずの)クリーンディーゼルへ発展しています。
日本でもクリーンディーゼルは一時期流行ったものの、根強い愛好者が残る一部のSUV用や、尿素SCRが不要で排ガス浄化にユーザーの負担を強いることのないマツダのSKYACTIV-Dを除くと、乗用車用としてはすっかり廃れたのとは対照的です。
しかし2015年9月、厳しい規制をクリアしていたはずのVW(フォルクスワーゲン)ディーゼル車が、コンピューターにあらかじめ仕込んだ「検査モード」で、排ガス試験の時だけ規制をクリアするという不正事件「VWディーゼルゲート」で、風向きは変わりました。
そもそもEU諸国の自動車メーカーは、2014年にユーロ6が始まる段階でも「そんな規制は無理だ」と緩和や延期を強く要求するなど、厳しい排ガス規制へ真正面から取り組もうという姿勢が、日本どころかアメリカと比べても弱かったという歴史があります。
クリーンディーゼルのほか、VWを中心に小排気量エンジンをマイルド過給のターボチャージャーで補う「ダウンサイジングターボ」もヨーロッパ発祥の流行で、日本でも一時期ちょっと流行り、この2本柱でユーロ6は大丈夫なのかなと思わせました。
しかし、VWディーゼルゲートの余波でボッシュなどパーツサプライヤー(部品メーカー)の関与まで疑われた結果、EU当局は「もはやクリーンディーゼルもダウンサイジングターボも、少なくともEUの自動車メーカーは信用できない!」と考えたようです。
内燃機関がダメならHEVもダメ?
これはHEVやMHEVでもEUメーカー製なら同じことで、最終的にはアウトバーンを飛ばす主役、内燃機関がロクなものではない(と思わせてしまった)のですから、どうしようもありません。
2016年にはドイツで連邦議会が内燃機関(エンジン)を搭載した新車販売を禁止する決議を採択し、2017年にはイギリスとフランスが「2040年までに国内でガソリン車もディーゼル車も新車販売を禁止」と宣言するなど、EU加盟国を中心にヨーロッパ各国も続きます。
ここで「あれ?」と思うのは「内燃機関を積んだ車」…つまりMHEVどころかHEVもダメということで、仮にHEVにするとしても、後々BEVしか買えない時代を見越し、外部からの充電に対応したPHEV(プラグインハイブリッド)しか「つなぎ」にもなりません。
EUでのPHEVは、スーパーカーや高級車でも「市街地限定EV」のような形で普及が始まっていましたが、大衆車向けの現実的な選択肢として「まずはHEVを普及させて、しかるべき後にBEV」でも良さそうな気がします。
しかし、そうなるとEU内で購入できて、ユーロ6はもちろんユーロ7もどうにかなりそうなHEVを作っているのは日本の自動車メーカー…それも第一にトヨタ、次いでホンダがどうにか…くらいです(日産のe-POWERはシティコミューター向けで高速巡航は向かない)。
EUのメーカーでも、ルノーが「E-TECH」というアウトバーンでの高速巡航にも対応したヨーロッパ向けハイブリッドシステムを市販化しているので、それなら良さそうな気もします(逆に高速巡航でもせいぜい120km/h程度の日本向きではありませんが)。
しかし、それ以外はあまりトヨタやホンダのようなHEVの話を聞かないので、彼らもいくらか作れるBEVやPHEVで勝負した方がいいと思ったのでしょうか?
BEVでいこうとしたら、身内も含め中国製
とにかく、2017年あたりから急に「これからはBEVの時代だよ!」と叫び始め、普及し始めていた日本製HEVは「普通の車」扱いにして、将来性を閉ざしました。
EUの自動車メーカーには、日本車に対抗できるHEVを作る準備がなかったので致し方ありませんが、その結果として何が起きたかと言うと…。
- 主にBYDを中心とする、中国製BEVの大進出。
- 中国製BYDに価格面で対抗すべく、EUメーカーも中国でのEU向けBEVの生産を開始。
メルセデス・ベンツは「スマート」ブランド、BMWは「ミニ」ブランドと自社ブランドのiX3など、それにスウェーデンのボルボも中国製ですし、アウディなどVWグループも中国に進出しています。
何しろEU当局が「BEVを普及させるべし」というのですから、誰でも買えるような現実的な価格を実現し、なおかつ世界各国へ輸出までしようと思えば、少なくとも低価格車は電気自動車の大市場がある中国で作らないと、とても割に合いません。
慌てたEUは「中国製BEV」に高い関税をかけて締め出そうとしますが、最終組立は中国でも、中国へ多くの部品を輸出しているEU内の自動車メーカーやパーツサプライヤーにとってもいい迷惑で、猛烈な反発を受けました。
PHEVなら何とか…とはいえ、あくまで「つなぎ」
結局、EUは「e-Fuelなど代替燃料を使った内燃機関なら、今後も継続の余地はある」と譲歩し、2025年からを予定していたユーロ7規制を早くとも2028年以降に延期し、内燃機関を積む新車の販売禁止も事実上の延期、撤回という流れです。
それで日本国内でも最近の報道から、「PHEVこそ大本命、やはりBEVはいらなかった!」という論調が増えているものの、単にEU内メーカーのほとんどがトヨタやホンダのようなHEVを作れないだけの話で、どのみち最終的にBEVが主流となるのは避けられません。
何しろ日本でも未だ実現していないように、コンパクトカーや軽自動車…ヨーロッパの場合だと「クワドリシクル」なと呼ばれる超小型車…には、HEVより複雑でかさばるPHEVのシステムは詰め込めませんし、現状で高価な代替燃料がガソリン並になる見込みもなし。
そうなると大衆車の多くはBEVになるしかありませんし、PHEVにしても自宅で充電できなければ「重くて非効率で高価なHEV」ですから、自宅充電設備でPHEVをしばらく使いながら、中国製にコストパフォーマンスで対抗可能なBEVを作れる日を待つのでしょう。
日本車はトヨタや三菱、マツダがいくらか作るPHEVを除けば、一時はヨーロッパでのシェアを落とすでしょうが、ホンダや日産を含め電動化技術、つまりHEVやPHEVをモーターで効率よく走らせるのに努力してきた歴史は長いので、BEVでも巻き返しが期待できます。
中国車、韓国車、それに一応はアメリカ車ということになるテスラがズラリと並ぶBEV戦線、今さらHEVと言っても日本車が立ちふさがりますし、例外的に内燃機関が生き残れそうな高級車やスーパーカー以外で、ヨーロッパ車は生き残る事ができるのでしょうか?
日本のように早くから「本当の意味で高い環境意識」を持ち、HEVに手を付けていれば、また違った歴史があったかもしれません。
あまりに優秀で安価なHEVを作ってしまったため、日本ではBEVの普及に世界各国より時間がかかる…見方を変えれば「時間をかけられる」わけですが、HEVで早くからモーターで走るのに慣れていますから、BEVへの移行も案外スンナリいきそうな気がします。
このブランドについて
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NISSAN
日産
かつては日本第2位の自動車メーカーであり、自他ともに求める「技術の日産」として、真剣なクルマ選びに値する玄人好みのクルマがユーザーに支持される日産自動車。フェアレディZやスカイライン、GT-Rといった歴史と伝統を誇るV6DOHCターボエンジンのハイパワースポーツをイメージリーダーとして大事にする一方、2010年に発売したリーフ以降、SUVのアリア、軽自動車のサクラなど先進的なBEVをラインナップ。さらにエンジンを発電機として充電いらず、従来どおり燃料の給油で乗れる「e-POWER」搭載車を増やしており、モーターのみで走行するクルマの販売実績では、日本No.1の実績を誇るメーカーでもあります。
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このブランドについて
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MITSUBISHI
三菱
近年の三菱自動車は、ミニバン型のデリカD:5、軽スーパーハイトワゴンのデリカミニ、ピックアップトラックのトライトンに正統派のアウトランダーと、ラインナップのほとんどをSUVが占め、長年培った電子制御技術によって、AWDでも2WDでも優れた走行性能を発揮するのが特徴。軽BEVのeKクロスEVやミニキャブMiEV、アウトランダーやエクリプスクロスではPHEVタイプのSUVも好評で、規模は小さいながらもSUVや商用車の電動化では最先端を走るメーカーです。日本でのイメージリーダーは「デリカ一族」のデリカD:5とデリカミニですが、日本でも人気が再燃したピックアップトラック市場へトライトンを投入します。
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TOYOTA
トヨタ
常に世界の最多生産台数を争い、日本のみならず世界を代表する自動車メーカー、トヨタ。多くの日本車メーカーと深い関わりを持ち、グループ全体で超小型車からバス・トラック、産業車両まで網羅したフルラインナップ・メーカーであり、近年は実用性やコストパフォーマンスのみならず、スポーツ性など走る楽しみにも力を入れています。世界初の量販ハイブリッドカー「プリウス」から電動化技術では最高の蓄積を持ち、自動運転技術の実用化、新世代モビリティと都市生活の在り方を模索する「ウーブン・シティ」へ多大な投資を行う一方、電動化だけがエコカー唯一の選択肢ではないというスタンスも崩さず、死角のない全方位戦略が現在の特徴です。
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