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亘理町役場の町民生活課は、不法投棄パトロール用の公用車に電気自動車の三菱 ミニキャブMiEVを活用している

国からの補助金だけではない!地方自治体による電気自動車普及の取り組みを紹介~宮城県岩沼市・亘理町編~

電気自動車やプラグインハイブリッド車、燃料電池車の購入には国からのCEV補助金が大きくモノを言うものの、普及に向けた動きは都道府県や市町村といった自治体単位でも取り組まれています。今回は2024年現在行われている施策として、宮城県南部の岩沼市と亘理町の補助金についてのお話を、担当部署から伺いました。

目次

  1. 市内に水素スタンドがあり、FCEVの購入も補助する岩沼市の「電動車導入補助制度」
  2. 昨年度13台の実績あり!亘理町の「クリーンエネルギー自動車導入促進事業補助金」
  3. やや違いはあるものの、今回のケースは「設備の補助」がメイン

市内に水素スタンドがあり、FCEVの購入も補助する岩沼市の「電動車導入補助制度」

岩沼市役所

岩沼市役所

家庭からのCO2排出削減の決め手は、太陽光発電と蓄電池(電気自動車など含む)

まず最初は宮城県の県庁所在地・仙台市から南に2つ隣の沿岸部にある岩沼市から。


人口4.3万人と規模は小さいものの、仙台空港や周辺の工業地帯、物流拠点といった豊富な産業地帯を抱えており、仙台のベッドタウンというだけではなく、市内への通勤、旅行客など人の流れが多い自治体です。


───早速ですが、岩沼市では太陽光発電など住宅向けの設備を中心に、BEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池)についても、それぞれ2万円の補助を出していますが、そこへ至る経緯について教えてください。


岩沼市 生活環境課・担当者様(以下「岩」):岩沼市では2021年に「ゼロカーボンシティ宣言」を表明しまして、2050年までのCO2実質排出量ゼロを目指し、2030年までの排出量削減数値目標を各分野で設定しました。


その一環として、各家庭からの排出量削減と、市民への意識付けを狙ったのが、電気自動車などの購入を補助する「電動車導入補助制度」と、設備の導入を補助する「脱炭素推進設備導入補助制度」です。




電動車導入補助制度

BEV・PHEV・FCEV

2万円

脱炭素推進設備導入補助制度

住宅用太陽光発電システム

1kWあたり20,000円で上限が80,000円


(1,000円未満切捨て)

定置用蓄電池

1kWhあたり25,000円で上限が100,000円


(1,000円未満切捨て)

家庭用燃料電池システム(エネファーム)

1台あたり25,000円

ヒートポンプ給湯器(エコキュート)

1台あたり25,000円

V2H充放電設備

1台あたり20,000円


───補助金の額を見ると、太陽光発電と蓄電池の設置がメインで、電気自動車は控えめな印象を受けます。


せめてここに充電設備の補助もあれば、電気自動車の購入にも弾みがつくと思うのですが…


岩:単純な充電設備については今のところ対象外で、V2H充放電設備のみです。


───電気自動車などについては国や県からの補助金もありますし、そのうえで太陽光発電その他の設備と組み合わせた「走る蓄電池」としての機能を活かすために、V2H充放電設備には補助を出す、ということでしょうか。


岩:そうですね…あくまで市としては現在太陽光などの設備が主です。



電気自動車などへの買い替えで、中古車が対象とならない理由に納得!

───ところで、電気自動車などがCO2排出削減に役立つという意味で、新車より性能が控えめとはいえ、中古車でもそれに近い効果はあると思います。


しかし岩沼市の電動車導入補助制度は「新車への買い換え」に限定しており…これはなぜでしょう?国のCEV補助金に合わせたのでしょうか?


岩:岩沼市に居住している人が買った新車を、同じ市内に居住している人が中古で買った場合、電動車が増えるわけではないので、CO2排出削減にならないのが理由ですね。


運輸支局なら市外から購入したとハッキリわかると思いますが、現状ではもともとどこにあった車かどうかわかるのは、(自治体に税金を収める)軽自動車だけとなっています。


───なるほど!確かにそれでは補助金を出す理由がない…ものすごくシンプル、かつハッキリ納得できる理由をいただけてありがとうございます。


運輸支局と情報共有できる仕組みでもあればいいのかもしれませんが、まだ縦割り行政というか、難しいところですね。

目標達成のためには、補助の拡大が必要

───補助制度の利用状況ですが、現状ではどうでしょう?


岩:「脱炭素推進設備導入補助制度」は前年度(令和5年度)から始めていますが、ほぼ予算規模程度の申請が来ました。


「電動車導入補助制度」は今年度開始なので実績はまだですが、既に問い合わせがきていまして、前期・後期の申込みに対して多数の申請が来た場合は抽選になります。


───初年度で予算いっぱいの申請が来ているということは、今年度は様子見したり先送りした方の申請も増えそうですね…電気自動車などを含め抽選で漏れるようになると、せっかくの施策にも水をさしてしまいそうですが、今後の見通しとして、補助の拡大は考えていますか?


岩:今後なのですが、現在の予算規模では2030年までの目標達成に至らないのは確かなので、補助する件数を増やすか、補助金を増額するか…予算の拡大が必要だという認識ではいます。


───正直、電動車導入補助の「2万円」というのは、県内で他の市町村と比較しても少額なのは確かですし、電気自動車メディアとしては、もう少し増額してくれたら嬉しいな…というのが正直な感想です。


岩:設備にせよ電気自動車などにせよ、件数を増やすが、個々の補助を増額せねば、ということにはなります。

水素ステーションがあるので、市長車はFCEV

───そういえば、市民への意識付けという意味で市役所は先頭を切って電動車を導入する立場ではないかと思いますが、公用車に電気自動車などは導入されてます?


岩:あいにくウチ(生活環境課)にはないですが、軽貨物の電気自動車でいろいろ運んだりといった話は聞いてます。


今は公用車の台数を削減する方向ですが、その中でも更新の段階で検討されていくことになるでしょうね。


そういえば市長車は燃料電池車(FCEV)ですよ。


───ええっ、じゃあ仙台の宮城野区(仙台港)まで水素を充填しにいくのは大変では?


岩:それが、仙台空港の方に水素ステーション(イワタニ水素ステーション仙台空港)ができまして、そこで充填してます。


───なるほど!(いつの間に…)それなら補助制度で電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)ではなく、燃料電池車を買った市民の方も安心して使えますね!




お問い合わせ先

岩沼市 生活環境課


電話:0223-23-0584


FAX:0223-22-1264

昨年度13台の実績あり!亘理町の「クリーンエネルギー自動車導入促進事業補助金」

亘理町役場

亘理町役場

町民への「一丸となってゼロカーボンシティを目指そう!」というアピールが主目的

宮城県南部で電気自動車などの購入に補助金を出している2つ目の自治体は、沿岸部で岩沼市の南側に位置する亘理町。


人口3.3万人で「町」としてはやや規模が大きく、新しく立派な町役場が目立つ田園地帯のベッドタウンという趣ですが、地形に特徴のある汽水湖の「鳥の海」には温泉があり、宮城県を代表する秋の味覚のひとつ「はらこめし」など、海鮮も豊かな自治体であります。


───こんにちは!亘理町も2022年の「ゼロカーボンシティ宣言」に基づき、2030年に向けたCO2削減目標を達成するための補助金だと思いますが、ズバリ今の補助金で目標は達成できますか?今後の増額の見通しなども含め、教えてください!


亘理町 町民生活課 ゼロカーボン推進班・担当者様(以下:「亘」):クリーンエネルギー自動車導入補助事業は、亘理町全体で一丸となって地球温暖化防止の推進を図り、ゼロカーボンシティを目指そう!という意識の醸成と、災害に強いまちづくりを主な目的として実施しています。


CO2 削減目標達成における手段のひとつですが、この事業だけで達成できるものではありません。今後は2030 年の目標達成に向け、限りある予算の中で事業を進めていきたいと考えています。


───それでも電気自動車などへの補助金は5万円とソコソコ出ますし、電気自動車メディアとしてはちょっと嬉しいところですから、ちょっとお話聞かせてください!


クリーンエネルギー自動車導入促進事業補助金

BEV・PHEV

5万円


※新車だけではなく、新規登録から3年以内で車両本体価格が100万円以上ならば、中古車もOK!

脱炭素まちづくり推進設備等導入促進事業補助金(※)

住宅用太陽光発電設備

1kw当たり5,000円を乗じて得た額(上限:20,000円)

定置用蓄電池

1kwh当たり10,000円を乗じて得た額(上限:50,000円)

家庭用燃料電池システム

1台当たり50,000円

家庭用高効率給湯器

1台当たり20,000円

※あくまで上限額。ただし上限に達しない場合で、その額に千円未満の端数が生じたときは、これを切り捨てた額とする。

二酸化炭素排出削減に取り組んでいるため、新車も中古車もOK!

───電気自動車の補助金に関する亘理町の制度と言えば、ちょっと面白いなと思ったのが、新車登録から3年以内という制約はあるものの、「中古車もOK」というところです。


なぜ新車に限らず、他市町村では補助していない中古車にも補助しようと考えたのでしょうか?


亘:新車・中古車ともに、購入者は二酸化炭素排出削減に取り組んでおり、新車は高いけれど中古車なら購入できるという方も幅広く補助しようという目的から、中古車も対象としました。


制度の主目的はあくまで「ゼロカーボンシティ宣言」の周知と、住民の意識向上を目的としていますから、新車にこだわる必要性はむしろないと考えています。


───なるほど!あくまでCO2排出削減には新車である必要はない、というのもわかりますし、自治体によって微妙に考え方が違うものですね。

高額なV2H設備+電気自動車より、蓄電池や燃料電池という考え方もある

───ただ、そうなると設備の補助金(脱炭素まちづくり推進設備等導入促進事業補助金)にV2H充放電設備への補助金がないのは気になります。


太陽光発電で電気自動車に充電して、夜は電気自動車からの給電で家庭の電気をまかなうV2Hは、他の自治体では目玉のひとつとさえ言えますが、亘理で補助金の設定がないのはなぜでしょう?


亘:検討の結果、需要の高いものから補助を出そうということで、まずは太陽光発電+蓄電池といった設備を柱にしたもので、「走る蓄電池」としての電気自動車を否定するわけではないのですが、今後の需要次第と考えています。


───ムムム、確かに…電気自動車メディアとしては少々さみしいものの、理屈としてやはり設備優先となるのはわかります。


定置式の蓄電池や燃料電池はずっと家のそばにありますが、電気自動車だと出かけてしまえば蓄電池の役割を果たさないのも確かですし、これも自治体によって判断が見事に分かれますね…。

昨年度実績は13台!設備と電気自動車の予算配分は柔軟に…

───そうなると、電気自動車への補助金は需要も少ないのかなと心配してしまいますが、実績はどうでしょう?


亘:昨年度実績は13台で、新車も中古車もありました。


───13台!正直申しまして…大都市の近辺というわけでもない、どちらかといえばのどかで自然にあふれる土地柄で、1年に13台も電気自動車を買う人がいるという事実に驚きました。


そういえば補助金の要項には特に台数制限がなく、どこが上限なのかと疑問に思っていましたが、実際何台までなんでしょう?


亘:これも「脱炭素(ゼロカーボン)」というくくりで、実は設備と電気自動車の予算はひとつにまとまっています。


ですから、電気自動車と設備合わせて予算を計上しており、どちらが何件までという考え方はしておりません。


昨年度(令和5年度)が初年度でしたが、多くの申請をいただきました。


しかしながら、限られた予算内での補助となりますので、想定以上の申請があった場合には抽選とさせていただくこととなります。

町役場で軽貨物EVを使用中!しかし公用車で電気自動車を増やすにはハードルが

───最後に、住民の先頭を切る立場として、町役場で電気自動車は使ってますか?


亘:町民生活課ゼロカーボン推進班で、不法投棄のパトロール用に、ミニキャブのEVを率先して導入しています。


ゼロカーボン推進のため、ガソリン使用の公用車との二酸化炭素排出量の比較も行っています。


───おお、本当に先頭を切っていて、頼もしい限りです!


それなら今後は公用車が続々と電気自動車へ切り替わっていくと…?


亘:今後、買換えを行う公用車については、2050年ゼロカーボンシティの実現に向け、ガソリン車ではなく低燃費ハイブリッド車や電気自動車を導入する方針としております。


現段階では1台だけですが、電気自動車で置き換えを進めるには台数分の充電器が必要になりますので、設置場所等も検討しながら役場全体で取り組んでいきます。


───仮に充電器や設置費用の予算がついても、充電器の設置に適した場所へ全ての公用車が駐車されているとは限りませんからね…最後に思わぬところで現実を見せられた気がします。




問い合わせ先

亘理町 町民生活課 ゼロカーボン推進班


電話:0223-34-1113


FAX:0223-34-6178

やや違いはあるものの、今回のケースは「設備の補助」がメイン

「ゼロカーボンシティ宣言」の表明直後からCO2削減関連設備や電気自動車への補助を始めたのも、岩沼市と亘理町の共通点

「ゼロカーボンシティ宣言」の表明直後からCO2削減関連設備や電気自動車への補助を始めたのも、岩沼市と亘理町の共通点

今回取材した岩沼市、亘理町は、「新車のみ(岩沼市)/中古車もOK(亘理町)」、「V2H充放電設備にも補助(岩沼市)/V2Hは対象外(亘理町)」と考え方の違いはあったものの、共通するのは「CO2排出削減策は設備がメイン、電気自動車はサブ的」なところ。


ただし、だからといって電気自動車を軽く見ているわけではなく、国のCEV補助金や県の補助金をうまく使って電気自動車を購入したユーザーが、住宅のCO2排出削減設備と組み合わせることで、うまくフル活用してもらえればという意図も見えてきます。


まだ両市町とも昨年度、あるいは今年度から電気自動車購入への補助をスタートさせたばかりですし、今後も手探りで制度の内容やボリュームが変わるのかもしれません。


皆さんが住んでいる自治体では、どんな考え方をしているでしょうか?

著者プロフィール

【兵藤 忠彦】 宮城県仙台市在住のフリーランスライター。モータースポーツに参戦していた経歴は全てダイハツ車という、自動車ファンには珍しいダイハツ派で、現在もダイハツ ソニカを愛車として次の愛車を模索中。もう50代なので青春時代を過ごした1980〜1990年代のクルマに関する記事依頼が多いものの、自動運転やEVといった次世代モビリティでも楽しめるはず!と勉強中です。

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