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歴史は繰り返す?!今のBEVと同じように否定されていたHEVが受け入れられるまで(5)

前回は2010年頃でついにHEVが大ブレイクという話でしたが、中にはその特徴からHEV化が向かない車種もあります。一方そういう車種であっても燃費や排ガスなど環境性能の向上を求められる場合も。今回はそういう車種がBEV化するまで、内燃機関(エンジン)だけでいかにHEVへ対抗しているかを紹介しましょう。

目次

  1. みんなHEVになれば全て解決!とはいかない事情
  2. 内燃機関の限界に挑戦した、ダイハツの「e:sテクノロジー」
  3. 「エネチャージ」に始まる、スズキのMHEV戦略
  4. 過激な低燃費競争からの転換
  5. e-POWERなど「過渡期のHEV」にはまだ可能性あり

みんなHEVになれば全て解決!とはいかない事情

みんなHEVになれば全て解決!とはいかない事情

2010年頃から、トヨタの3代目(30系)プリウスや初代アクアの発売、災害時にあまりガソリンスタンドへ行かずに済む超低燃費や外部給電機能への注目で、HEVは一気に大ブレイク!そこからトヨタ以外も含め車種増加により市民権を得ていきます。


しかし、「それならこれからの車は全部HEVにすればいい!」かと言えばそうはなりません。


なぜかと言えば、以下の課題は依然として残るからです。


  • ハイブリッドシステムを追加で積む以上、純エンジン車より高価になる。
  • 走行用バッテリーの経年劣化で性能は落ちていくので、古くなるほどリセールバリューの低下が急激。
  • そもそも車体が小さいほどハイブリッドシステムを積む余裕がなく、無理に積んでも燃費低減効果が低く、小さくて安価という魅力を潰すだけで終わる。


これら全ては、従来からの純エンジン車にハイブリッドシステムを追加するために発生する課題ですからHEVの宿命であり、さらにバッテリーを大容量化して外部充放電機構を追加したPHEV(プラグインハイブリッド車)では、さらに顕著となります。


ならばエンジンと燃料タンクを取り去り、一気にBEV化すれば…と言っても、2010年代前半に市販できたレベルの技術では、ある程度以上納得するだけの性能(特に航続距離)や価格、急速充電の高性能化は困難です。


特に問題だったのは軽自動車やリッターカー級の小型車で、三菱 i-MiEVのようにある程度割り切った性能でも価格を抑えきれず、国からのCEV(クリーンエネルギービークル)補助金も今より少ない時期でしたから、BEVはまだ時期尚早と言えます。


しかし低燃費化は早急に実現しないといけませんから、コンパクトなサイズで安価というメリットを崩すことなく、可能な限り努力せねばなりません。

内燃機関の限界に挑戦した、ダイハツの「e:sテクノロジー」

内燃機関の限界に挑戦した、ダイハツの「e:sテクノロジー」

「もともと小型軽量で燃費がそう悪くない軽自動車のHEV化は、大して燃費向上に役立たつ、それでいて高価なことには変わりない」という教訓は、スズキのツインハイブリッド(2003年)や、ダイハツのハイゼットカーゴハイブリッド(2005年)が、よい教訓です。


そのため両者はHEV化以外の技術で軽自動車の生き残りを図りますが、先に登場したのは2011年9月にダイハツが発売した初代ミライースの「e:sテクノロジー」でした。


シンプル・イズ・ベストを追求した結果、環境性能も走行性能も優れた軽乗用車に仕上がった「エッセ」(2005年)や、その後継を目指したコンセプトカー「イース」(2009年)を叩き台に、電動化技術を一切使わず軽量・低コストで高効率を追求したのが特徴。


細かい話は抜きに根幹だけ述べれば、電子制御スロットル化された高効率エンジンと、CVT(無段変速機)の協調制御で、要するに「人間はアクセルペダルの操作により意思を伝えるだけで、実際に考えて操作するのは全てコンピューター任せ」というわけです。


衝突被害軽減ブレーキをはじめに、アダプティブ・クルーズコントロールなど運転支援システム、自動運転システムなどと同じような発想ですが、人間というのは慣れとともにどうしても適当に機械を操作するので、そうなると適切な結果など得られるものではありません。


カタログ通りの燃費が出ないのも大抵はそうした「アクセルペダルひとつ取っても踏みすぎたり足りなかったりの適当な操作」が原因ですが、ならば人間には意思決定だけしてもらい、コンピューターに操作させれば狙い通りの結果を出しやすくなります。


他にもさまざまな努力を組み合わせた結果、発売時のJC08モード燃費は30.0km/Lと、同年12月発売のアクア(同35.4km/L)や、3代目30系プリウス(同32.6km/L)に次ぐ低燃費、しかもハイブリッドシステムがないため79万円からという超格安で、実現しました。


同時期の「ミラ」5MT車が10・15モード燃費24.5km/L(JC08モード換算で22.1km/L程度)、スズキ「アルト」5MT車が同22.6km/L(JC08換算20.3km/L程度)とは違いが歴然です。


なお、スズキも直後の2011年12月、アルトに新型エンジンを先行投入した「アルトエコ」を発売、ミライースより10L少ない20Lの燃料タンクを採用するなど意地の軽量化で、JC08モード燃費30.2km/Lと軽自動車燃費No.1を奪還し、燃費争いが激化しました。

「エネチャージ」に始まる、スズキのMHEV戦略

「エネチャージ」に始まる、スズキのMHEV戦略

内燃機関の限界争いが激化した軽自動車ですが、スズキはミライースやアルトエコとはまた違ったアプローチで、一層の低燃費化を目指します。


それが2012年9月に発売した5代目ワゴンRで初採用の「エネチャージ」で、なんとHEVでもないのにリチウムイオンバッテリーを搭載、高効率オルタネーター(発電機)で減速時を中心に発電してリチウムイオンバッテリーに充電、車内電装品の大半に使う仕組み。


要するにHEVの回生エネルギーシステムだけ搭載したと思えばいいのですが、これだけでも「エンジンがオルタネーターを駆動して発電」という負担がかなり減るため、燃費は向上します(ワゴンRでは先代のJC08モード燃費21.0km/Lが28.8km/Lになった)。


しかしスズキがすごかったのはさらにもう一段、2014年8月のワゴンRマイナーチェンジで採用した「S-エネチャージ」で、高効率オルターネーターをエンジンスターター機能を加えた「ISG」という強化品へ換装し、発進時のモーターアシストまで可能にしました。


内燃機関(エンジン)は低回転だとトルク(動かす力)不足ですが、中高回転域では効率がいいため、高効率エンジンなら発進時の低回転域をモーターアシストするだけでも、驚くほど燃費が良くなる理屈です。


過去にはトヨタがTHS-Mを積んだクラウンのマイルドハイブリッド版(2001年)、日産がセレナのS-HYBRID(スマートシンプルハイブリッド・2012年)で採用していますが、軽自動車に採用したのには驚かされました。


S-エネチャージ版のワゴンRはJC08モード燃費が32.4km/Lまで向上、e:sテクノロジーを進化させたダイハツの6代目ムーヴ(2014年12月発売の現行モデル)も同31.0km/Lへ向上させています。


スズキはその後もコンパクトカーを含むあらゆる車種へ(S-エネチャージ改め)マイルドハイブリッドのMHEV車を設定しますが、もっともスゴイのはライバル車に対し数万円程度の価格アップで、驚異の低燃費を実現していることでしょう。

過激な低燃費競争からの転換

過激な低燃費競争からの転換

しかしこうした激しい燃費競争は、スペック上は高性能ながら普通に運転するのも難しくなってしまった、かつての軽自動車パワーウォーズと同じように、「歪んだクルマづくり」へつながってしまいます。


2016年4月、他社と異なり古いエンジンでもどうにか軽自動車の低燃費を実現していたかに見えた三菱、それに同社と共同開発する関係だった日産の軽自動車でJC08モード燃費試験の不正が明らかとなり、業界へ衝撃を与えたのです。


ライバルへの対抗上、あまりにも無理をしすぎた結果ですが、両社の軽自動車が数ヶ月の販売停止後も大して販売台数が落ちず、N-BOXで一番人気だったホンダが極端な燃費や低価格に頓着していなかった事もあり、むしろユーザーを含め冷静になるよい機会でした。


それ以降も軽自動車やリッターカーは、小型軽量で安いのが売りなのは変わりませんが、改良のたびにライバルよりホンの少しでも燃費を良くするような「過激な競争」は避けられるようになりました。


三菱と日産の軽自動車も、ルノー系の小排気量エンジンをマイルドハイブリッド化したMHEVに変わり、さらにi-MiEVやミニキャブMiEVで積み上げたBEV技術を活かしたサクラやeKクロスEVのヒットで、内燃機関へそんなに無理をさせる必要がなくなっています。

e-POWERなど「過渡期のHEV」にはまだ可能性あり

e-POWERなど「過渡期のHEV」にはまだ可能性あり

純エンジン車やMHEVでは「ホドホドに」で収まりそうな低コスト低燃費路線ですが、2020年代になると軽自動車やリッターカーでも再びHEVへの道が開けてきました。


当初は1リッターターボの純エンジン車として発売された、ダイハツ ロッキー/トヨタ ライズ(後にスバルにも「レックス」としてOEM供給)へ、2021年にの「e-SMART HYBRID」というシリーズ式ハイブリッドシステム搭載車が追加されたのです。


シリーズ式ハイブリッドとは、日産が2016年11月に発売した「ノートe-POWER」から登場した新種のハイブリッドシステムで、エンジンは発電機として走行用バッテリーへの電力供給へ専念し、走行そのものはBEVと同じようにモーターだけで行います。


いわば「BEVのバッテリーを減らし、エンジンと燃料タンクを載せた」わけで、走行に直接関わるバッテリーとタイヤの間は電気自動車そのものですから、BEVの発展型としたり、シリーズ式HEVからのBEV化も容易。


「MX-30 R-EV」でロータリーエンジンと組み合わせPHEV化したマツダのように、外部からの充放電機構までこだわらなければ、軽自動車への搭載すら現実味があり、e-POWERの日産(と三菱)、スマートHVのダイハツは軽HEVの可能性もあるでしょう。


軽自動車は既に日産 サクラ/三菱 eKクロスEV、同クリッパーEV/ミニキャブEV、ホンダ N-VAN e:など、短距離用途でバッテリー容量も少なく安価なためBEVでも歓迎されやすいジャンルですが、これから新たにHEVで、もうワンクッションあるかもしれません。

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    かつては日本第2位の自動車メーカーであり、自他ともに求める「技術の日産」として、真剣なクルマ選びに値する玄人好みのクルマがユーザーに支持される日産自動車。フェアレディZやスカイライン、GT-Rといった歴史と伝統を誇るV6DOHCターボエンジンのハイパワースポーツをイメージリーダーとして大事にする一方、2010年に発売したリーフ以降、SUVのアリア、軽自動車のサクラなど先進的なBEVをラインナップ。さらにエンジンを発電機として充電いらず、従来どおり燃料の給油で乗れる「e-POWER」搭載車を増やしており、モーターのみで走行するクルマの販売実績では、日本No.1の実績を誇るメーカーでもあります。
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    常に世界の最多生産台数を争い、日本のみならず世界を代表する自動車メーカー、トヨタ。多くの日本車メーカーと深い関わりを持ち、グループ全体で超小型車からバス・トラック、産業車両まで網羅したフルラインナップ・メーカーであり、近年は実用性やコストパフォーマンスのみならず、スポーツ性など走る楽しみにも力を入れています。世界初の量販ハイブリッドカー「プリウス」から電動化技術では最高の蓄積を持ち、自動運転技術の実用化、新世代モビリティと都市生活の在り方を模索する「ウーブン・シティ」へ多大な投資を行う一方、電動化だけがエコカー唯一の選択肢ではないというスタンスも崩さず、死角のない全方位戦略が現在の特徴です。

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  • MITSUBISHI

    三菱

    近年の三菱自動車は、ミニバン型のデリカD:5、軽スーパーハイトワゴンのデリカミニ、ピックアップトラックのトライトンに正統派のアウトランダーと、ラインナップのほとんどをSUVが占め、長年培った電子制御技術によって、AWDでも2WDでも優れた走行性能を発揮するのが特徴。軽BEVのeKクロスEVやミニキャブMiEV、アウトランダーやエクリプスクロスではPHEVタイプのSUVも好評で、規模は小さいながらもSUVや商用車の電動化では最先端を走るメーカーです。日本でのイメージリーダーは「デリカ一族」のデリカD:5とデリカミニですが、日本でも人気が再燃したピックアップトラック市場へトライトンを投入します。

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著者プロフィール

【兵藤 忠彦】 宮城県仙台市在住のフリーランスライター。モータースポーツに参戦していた経歴は全てダイハツ車という、自動車ファンには珍しいダイハツ派で、現在もダイハツ ソニカを愛車として次の愛車を模索中。もう50代なので青春時代を過ごした1980〜1990年代のクルマに関する記事依頼が多いものの、自動運転やEVといった次世代モビリティでも楽しめるはず!と勉強中です

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