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国からの補助金だけではない!地方自治体による電気自動車普及の取り組みを紹介〜宮城のカリフォルニアになれるかも?!東松島市編~
公開日:2024/09/05更新日:2024/09/05
目次
宮城県東松島市ってどんなところ?
宮城県内でも環境意識の非常に高い東松島町は、国や内閣官房との連携で持続的に成長中
2005年(平成17年)、「平成の大合併」で桃生郡の矢本町と鳴瀬町の合併により誕生したのが東松島市で、宮城県内第2の都市・石巻市の南隣に位置した沿岸の街であり、太平洋戦争中に旧海軍が完成させ、現在は航空自衛隊が使用している松島基地があります。
同基地に所属する航空自衛隊第11飛行隊、アクロバットチーム「ブルーインパルス」のホームベースとしても有名で、同じく所属する第4航空団の練習機(2人乗りのF-2B戦闘機)が頻繁に発着する合間を縫って、沖合でブルーインパルスの訓練風景も見られる土地柄。
それを除けば基本的にはのどかな沿岸の農村地帯という趣ですが、高度な住民自治も特徴としていて住民独自の防災意識なども非常に強く、2011年の東日本大震災では大津波で深刻な被害を受けつつ、自治組織による避難所運営が比較的スムーズに行われました。
一方で環境意識も高く、震災前の2008年には内閣官房の「環境モデル都市構想」、被災後も復興と並行して「環境未来都市構想」などへいち早く取り組み、現在も「東松島市スマート防災エコタウン」を建設中です。
「宮城県」という枠にとらわれず、国や政府の機関と連携したモデルケース的な街づくりに熱心なため、どこにでもある地方自治体と思って訪れると、驚かされることが少なくありません。
筆者などはその独自性や強い自治意識から、ひそかに「宮城のカリフォルニア」(※)と思っている東松島市ですが、電気自動車の普及に関わる取り組みも、また宮城県内の他市町村では見られないユニークなものでした。
(※アメリカ合衆国のカリフォルニア州といえば、連邦内での独自性、自治意識、環境意識などが非常に強く、一昔前は電気自動車を始めとする無公害車…ZEV…の普及でも先進的であり、カリフォルニアの決定が世界の自動車に大きな影響を与えたものです)
令和6年度東松島市重点対策加速化事業補助金
令和6年度東松島市重点対策加速化事業補助金(宮城県東松島市) | ||
対象者の要件 | 市民又は市内事業者であること、市税等を滞納していないことなど | |
補助対象 | 補助率または補助額 | 条件 |
BEV・PHEV | 蓄電容量×1/2×4万円/kWh | 経済産業省「CEV補助金」交付額が上限(CEV補助金との併用不可) |
太陽光発電設備 | 市民:7万円/kW(上限10kWまで) 事業者:5万円/kW(上限50kWまで) | ※再エネ特措法に基づく固定価格買取制度(FIT)の認定又はFIP制度の認定を取得しないこと。 ※市民は30%以上、事業者は50%以上の自家消費率を敷地内で自ら消費すること。 |
ソーラーカーポート | 市民・事業者:1/3 | ※再エネ特措法に基づく固定価格買取制度(FIT)の認定又はFIP制度の認定を取得しないこと。 ※市民は30%以上、事業者は50%以上の自家消費率を敷地内で自ら消費すること。 ※ソーラーカーポートについては、令和6年4月1日以降に設置したものが対象。 |
蓄電池 | 市民:蓄電池の価格(円/kWh)の1/3(上限10kWまで) 事業者:蓄電池の価格(円/kWh)の1/3(上限50kWまで) | ※太陽光発電設備とセットでの申請のみ補助対象 ※家庭用4,800Ah・セル未満):15.5万円/kWh(工事費込み・税抜き)以下のみ補助対象 ※事業用4,800Ah・セル以上):19.0万円/kWh(工事費込み・税抜き)以下のみ補助対象 ※太陽光発電設備等のパワーコンディショナーが蓄電池システムと一体型(ハイブリット)の場合、蓄電システム以外の電力変換に寄与する部分に係る経費を控除することができる。 |
エネルギーマネジメントシステム(EMS) | 市民:2/3(上限額20万円) 事業者:2/3(上限額133.3万円) | ※太陽光発電設備とセットでの申請のみ補助対象 |
充放電設備(充放電設備・充電設備) | ・市民:1/2(充放電設備は上限額75万円・充電設備は上限額35万円) | ※経済産業省「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金」で交付対象となる銘柄に限る。 |
高効率空調設備 | 市民:1/2(上限額5万円) | ※1世帯あたり各1台を上限 ※新規設置は補助対象外 ※従来の空調機器等に対して30%以上の省CO2効果が得られるもの。 |
高効率給湯器 | 市民:1/2 エコキュート・エコワンなど(上限額25万円) エネファーム(上限額40万円) | ※令和5年6月1日~令和6年3月31日までに契約したものの上限額は、エコキュート・エコワンなどが10万円、エネファームが30万円 ※1世帯あたり各1台を上限 ※従来の空調機器等に対して30%以上の省CO2効果が得られるもの。 |
この補助金でポイントとなるのは、経済産業省のCEV補助金や、みやぎ環境交付税あるいは独自財源による各自治体の補助金とは異なり、「環境省」が財源となっていることです。
そのためCEV補助金との併用ができず、太陽光発電とセットで補助金を受けたい時に限定しないと、BEVやPHEV単体では「CEV補助金でよい」という形ですが、そのうえでバッテリー容量からの計算式を当てはめると、サクラなど軽BEVはCEV補助金より低く不利。
ただし、そのあたりは今回お話を伺った東松島市役所の担当部署(SDGs・脱炭素社会推進課 SDGs・脱炭素社会推進係)でも把握しており、今後に期待してよいことを付記しておきましょう。
同じ物への補助でも考え方が全然違う、環境省と経産省
車庫にBEVがある自治体はありますが、カーポートソーラーに駐車してるのにビックリ
───さて、まずは要項などを見ていて気になった、「経済産業省のCEV補助金とは併用できない」について、市のホームページをサッと見た限りでは、CEV補助金に加えてこんなにもらえたら、BEVが普及してたまらないと思ったものの…実際はダメなんですよね?
東松島市SDGs・脱炭素社会推進課 SDGs・脱炭素社会推進係(以下、「東松島」):CEV補助金は経済産業省、当市は環境省の補助ですから、同じ国からの補助同士ということで、どちらかを選ぶことになりますね。
───それで疑問だったのが、投資の補助率「蓄電容量×1/2×4万円/kWh」という計算式で、これだと現在の売れ筋、日産 サクラなどバッテリー容量20kWhの軽BEVでは40万円しか出なくて、CEV補助金(55万円)に及びません。
東松島:そうなんですよ!当市でも当初から疑問に思って、環境省にこの計算式じゃどうしてもバッテリーが小さい軽自動車では、CEV補助金と足並み揃いませんとお話してたんですけども、基本的な考え方が違うので…環境省の目的はCEV普及じゃないですから。
───どういうことでしょう?
東松島:CEV補助金をやっている経済産業省の目的は電気自動車の普及ですが、環境省はあくまで再エネ普及が目的のため、BEVはあくまで「蓄電池という付帯設備」の扱いです。
───自治体レベルの補助金でも、「蓄電池としての機能に期待するから太陽光発電とセット」という考え方は、確かによく聞きます。
東松島:経済産業省と考え方が異なる環境省では、太陽光で再エネを生み出す(発電)装置と違って、基本的に何も生み出さず「貯める」だけの蓄電池には大きな補助が出ませんし、BEVやPHEV単体に、蓄電池の容量を基準にした以上の補助を出すこともありません。
───環境省という大きな組織がバックについているのですから、補助金をジャブジャブ出してBEVやPHEVをどんどん増やし、CO2を減らそうという話になるかと思いきや、「それは太陽光発電など再エネでやるから意味があるんだ」と、徹底しているわけですね。
東松島:だからBEVやPHEV単体で購入を考えている方にはCEV補助金の方が手軽ですけど、太陽光発電その他をセットで考えている方へ、当市の制度の選択肢をご検討いただければと考えています。
その限りにおいては、CEV補助金よりメリットが感じられる部分もあると思うので。
実績はまだないけど、N-VAN e:で風向きが変わるかも?
カーポートソーラーの充電器はなんとニチコンのV2H充放電設備…実際に使っているのは初めて見ました
───どうでしょう?実際にそれで市民や事業者が東松島市の補助金を選んだ実績や、問い合わせはありますか?
東松島:昨年度から始まった補助金ですが、電気自動車についての実績はないですね…やはり両方揃えると多額の出費になりますし、購入する電気自動車も…
───サクラやekクロスEVですよね、どこでもそうですけど。
東松島:そうです、そうなるとCEV補助金の方がいいなとなるのは、仕方ありません。
───東松島市の制度(というより環境省の制度)では、V2H充放電設備に限らず、通常の充電設備もOKにしていますから、これは他の自治体と比べて大きな武器になりそうですが。
東松島市:通常の充電器でも補助率1/2、上限35万円出ますが、サクラみたいな軽自動車を買う方だと充電器も華美なものは必要としませんし、そうなるとCEV補助金との差額15万円を捨ててまで充電器のために…とは、なかなかならないですね。
───しかし軽BEVでも、ホンダがN-VAN e:を出します(2024年10月10日発売)。
こちらはバッテリー容量が29.6kWhとほぼ30kWh級ですから、20kWhのサクラと違ってCEV補助金と同じ55万円が、東松島市の制度でも出ますし、サクラよりN-VAN e:待ちのユーザーが申請してくる可能性はあります。
東松島市:そうなんです!それならサクラと異なり「CEV補助金でいい」とはならないので、ホンダさんが入れば全然変わってくるでしょうね。
───残念なのは市内にホンダディーラーがないことですが、隣の石巻でホンダにお話して、東松島のお客さんいたらお願いしますなんていったら、営業の人も張り切るんじゃないかなという印象を受けます。
A:申込みのタイミングとかもありますが、太陽光を含めて全部導入という話にでもなれば、幅広くご紹介したいです。
公共充電スポットの整備
メインの車庫にはBEVのサクラとプリウスPHEV…最新鋭・最先端の電気自動車がズラリ!
───次に東松島市での、「電気自動車の使いやすさ」についてです。
市のホームページに掲載された今後の計画にあった、公共施設の充電設備開放など、市民による電気自動車の使い勝手向上、道の駅への充電スポット整備、デマンドタクシーのBEV化と、積極的な施策の現状はどうでしょう?
東松島:まず段階的な公用車の更新に対し、電力がどのくらい賄えるかってところで、実は公用車だけでも今は目一杯で、公共施設の充電設備開放までは現状難しいかなと…太陽光発電の容量と、充電スタンドの数も台数に対して足りず、将来的に増やせば可能ですが。
───ソーラーカーポートは市役所裏のコミュニティセンターにもあって、あそこに充電器がないのはもったいないなと思いましたが、どうでしょう?
東松島:あれは事業主体が別(市内のメガソーラーと同じく、企業と提携した事業)なので…これから整備するソーラーカーポートで、という事になりますね。
───既存のソーラーカーポートで充電できたらはずみがつくと思えば残念ですね…あと、市内の急速充電はトヨタと日産のディーラー2箇所だけで、これじゃ観光客がBEVで来てもみんな石巻に行っちゃいます。
そうなると三陸道矢本PAに隣接して建設中の「道の駅 東松島」(2024年11月開業)ですが、今の予定はどうでしょう?
東松島:当初からの計画にはありますが、まずは需要など導入調査をしながらやらないと、せっかく作っても誰も充電しない設備とか、結構ありますよね。
道の駅なら間違いないですが、そこに急速充電スタンドが何台分、どういうものが必要かを調査しながら、確実に整備していきたいです。
どのくらい稼働が見込めるかで必要性が変わってくるので…公共で充電器を設置するっていうと管理含めてリスクもありますが、今は民間事業者さんと提携し、土地さえ貸せば整備してくれますから、そういう情報も含めやっていかないとダメかなと思ってますね。
───栗原市さんや登米市さんなんかは民間業者を組んでますが、やるにしても環境ではなく観光部署がやるとか、目的によっていろいろなパターンがあるみたいですね。
期待したい本気度、東松島市の意気込みは?
軽1BOX車も当たり前のようにミニキャブEVが使われています
───ところで、東松島市がホームページで公開している資料を読むと、環境省が入っている割に予算規模がそんなに大きくはないような気がしまして…運輸部門(一般の自動車も含む)のCO2削減がこれではちょっと。
補助金でモデル的に電気自動車を使った人を見た市民のみなさんが、そんなに使えるならと買い替える流れを狙ってるんでしょうか?
東松島市:電気自動車だと、10台20台とかの規模になっちゃいますね。本市も2030年までに50%削減、2050年に100%削減とか段階的なCO2削減目標はありますし、細部のあの部門でこのくらいとか、そういう話はしていますが、兵藤さん言われた通りハードル高くて、このペースでやっているとちょっと…。
───国をあげて2050年までにゼロカーボンでやってるわけですが、2035年に純エンジン車の新車販売禁止といってもあくまで目標で、実際は時期が近づいたら無理だやめるってなるんじゃないのって言う人が結構います。
環境省や東松島市では、明確に達成するぞという目標としてやるのか、それともあくまで目標に向けて頑張る程度なのか、どういう雰囲気なんですかね?
東松島市:本市では「達成」ですね。市でできるところだと市の公共施設や公用車の入れ替え。それは目標じゃなく「やるぞ」という意識でやっているので、それをどこまで加速させられるかです。
───実際、東松島市役所に来ると、日産のショールームに行くより東松島市役所に来たほうが実際に使ってるイメージとして参考になります。
ソーラーカーポートの下にサクラが2台並んでるのを見ただけで、「他の自治体と違う!」って意気込みを感じますし。
東松島:そこはもう実行性というか…「やりましょう!」という気持ちの現われです。
公用車はリースなので、その入れ替えタイミングで最近だいぶ新しくなり、今は…サクラで7台、プリウスPHEVが2台ですね、ミニキャブEVが4台、他はまだガソリン車ですが、もっと増やさないといけないんですけどね。
───公用車の用途はどうでしょう?
東松島:サクラだと仙台まで往復すると満充電だとSOC(残容量)20%くらいなので、市内が多く、普通に現場の確認や打ち合わせ、出張とフル活用で、市役所に滞在していることは少ないです。
───災害時の長時間出動や、V2H/V2Lでの電力供給用途はサクラじゃ厳しいですか。
東松島:リーフみたいに40kWh級以上があればいいんですが、今はないので…今後は導入していかないと、難しいですね。今はプリウスPHEVの方が災害では出番です。
───公用車でBEVもPHEVも大いに活用している東松島市役所さんなら、市民の皆さんにとってもよいモデルケースになると思いますし、今後も期待していますね!
まだまだ止まらない、東松島市の「持続的成長」
ただ新しくてピカピカな車が並んでいるだけではなく、奥まで本当にキレイだった東松島市役所の車庫…「持続可能な成長」には、こうした日頃からの意気込みも不可欠ですね。
今回は宮城県東松島市役所の「SDGs・脱炭素社会推進課 SDGs・脱炭素社会推進係」でお話を伺いましたが、現状で公用車にBEVやPHEVを多数使い、ソーラーカーポートの充電設備はなんとV2H、それ以外でもHEVが多いなど先進性がひと目でわかる充実ぶり!
それだけではなく、公用車はどれもしっかり洗車されてピカピカですし、車庫もキレイに整理整頓されてチリひとつ落ちておらず、まさに「市民のお手本」となっているところに感心しました。
電気自動車や環境、防災関連にとどまらず、訪れるたびに何事も「真剣さ」を感じる東松島市ですが、これぞまさに惰性でやらない「持続的成長」というものでしょう…今回は都合で紹介できていませんが、面白い話が他にもたくさんあったので、東松島市はまた紹介します!
お問い合わせ先 | 東松島市 SDGs・脱炭素社会推進課 SDGs・脱炭素社会推進係 (宮城県東松島市矢本字上河戸36番地1 東松島市役所) TEL:0225-82-1111 内線1472、1473、1475、1476 FAX:0225-82-1124 |
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