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電気自動車は火災事故が多いのは本当か?日本と海外の事例を調査

電気自動車の話題になると、賛成、反対、様子見とさまざまな立場からの意見が出ますが、中でも激しい議論になりがちなのが「電気自動車は火災事故が多い!危険だ!」というお話。まだよくわからない未知の乗り物だけに、火災についても決め手となる意見はなかなか出ません。実際に日本や海外での事例はどうなのでしょうか?

目次

  1. 中国メーカーの電気自動車で火災事故が多発?
  2. 電気自動車は火災事故が多いのは本当?
  3. 電気自動車の火災事故が危惧される理由
  4. 実際に電気自動車の火災事故が発生した場合の対処方法
  5. 電気自動車の火災事故件数や発生確率についておさらい

中国メーカーの電気自動車で火災事故が多発?

中国メーカーの電気自動車で火災事故が多発?

SNSでは海外からのニュース配信を引用し、自らの意見も添えて発信する人が数多いのですが、自動車に関しては中国製の電気自動車で火災事故が起きた時など話題にしたがる人が多いようです。

中国メーカーの電気自動車で火災事故が増加

まず、中国メーカーの電気自動車で火災事故の「件数」が増加しているのは本当かどうか…と言えば、参考になるデータがひとつあります。


中国でさまざまな安全対策などに関わる「応急管理部」の消防救援局によれば、2022年第1四半期には電気自動車の火災事故が640件、1日平均では約7件発生しており、前年同期と比較して約32%増加したと発表されています。


ただしこれはあくまで「中国国内における発生件数」の話ですし、急激に増加する一方の電気自動車で事故が増えるのは当たり前、割合としてはどうなのか、中国メーカーと他のメーカーではどうなのかといったデータまではないことに、注意が必要です。

中国メーカーの電気自動車で実際に発生した火災事故例

わりと最近の事例で中国メーカーの電気自動車に起きた火災事故を検索すると、2024年4月26日に中国の山西省運城市で、スマートフォンなどでも著名なファーウェイ系の「問界(AITO)」ブランドが販売している電気自動車のSUV、M7が火災事故を起こしています。


ただしこれは高速道路で道路清掃車に追突、炎上事故を起こしたものであり、「何もしていないのに、バッテリーが勝手に出火して燃えた」という類の事故ではなく、エンジン車でも同様に火災事故を起こす可能性はあったでしょう。


それ以外では、日本でも積極的に展開している「BYD」の電気自動車が、中国国内などでディーラーなどに置いてあった、あるいは輸送中に発火した例もあり、さすがにこれはエンジン車ではなかなかありえない、電気自動車ならではの現象と言えます。

電気自動車は火災事故が多いのは本当?

電気自動車は火災事故が多いのは本当?

自然発火も含めた火災事故が増加しているならば、やはり電気自動車は火災事故が多い危険な乗り物なのか、エンジン車などとの比較、国内外での事例の比較などから考えてみます。

電気自動車の火災事故はエンジン車より圧倒的に少ない

まずよく話題となる中国国内での電気自動車火災事故ですが、ある統計では10万台中20台とされる一方、アメリカの統計だとハイブリッド車は3,475台、ガソリン車は1,530台としており、電気自動車の火災発生率ははるかに低い、としています。


あくまでそれは中国国内で起きた火災事故を参考にしたもので、国によってはより安全性の高い車しか公道を走ることを認められないため、ガソリン車やハイブリッド車の火災発生件数が少ないこともあるでしょう。


ただ、「電気自動車が、それ以外の自動車より火災事故を多く起こしている」という、有意な統計が今のところ見つかっていないのだけは、確かです。

日本における電気自動車の火災事故はほぼない

日本国内で電気自動車の火災発生事例はどうでしょうか?


Google検索の「ニュース」で特に期間などを設けず検索してみた限りでは、以下の事例がありました。


発生時期

内容

原因

2013年3月

三菱自動車水島製作所で生産中だったアウトランダーPHEV用バッテリーパックから出火。

検査工程で不適切な振動や落下によるショート。


生産済みだったアウトランダーPHEV4,000台の電池をリコールで交換。

2021年8月

佐賀県武雄市の住宅敷地内で電気自動車から出火。

大雨によりハンドル付近まで水に浸かった水没車で、漏電やショートの可能性はあるが続報は確認できず。

2022年12月

関西電力技術研究所で電気自動車のマイクロバスが出火。

リチウムイオン電池の充放電実験中に充電器から出火した模様。

2023年7月

千葉県千葉市花見川区の「アウディ幕張」屋外駐車場でe-tronが出火。

不明(出火原因に言及した報道やサイトが確認できず)。


意外と情報が少ないものですが、少なくとも日本国内で電気自動車の出火が多発している、という事例は確認できません。


なお、消防庁の統計では自動車の出火事故の原因として、電気自動車には存在しない「排気管」がもっとも多いようです。



アメリカでも電気自動車の火災事故はエンジン車より圧倒的に少ない

自動車大国のひとつであり消費者の意識が強く、権利や訴訟も多いアメリカは統計もしっかりしていそうですが、自動車保険の比較サイト「AutoinsuranceEZ.com」が公的なデータから集計したところ、以下の結果が得られています。


車のタイプ

車両火災発生件数


(10万台あたり)

発生率

HEV(ハイブリッド車)

約3,475件

約3.5%

ガソリン車

約1,530件

約1.5%

電気自動車

約25件

約0.025%


まだ数が少なく、慎重に使われている電気自動車の出火件数がたまたま少なかったと考えても、ガソリンという可燃物を積んでエンジンや排気管から高温を発するガソリン車、さらにモーターやバッテリーを積んでシステムが複雑なHEVの方が発生率ははるかに多いです。



電気自動車の火災事故が危惧される理由

電気自動車の火災事故が危惧される理由

イメージとしてはともかく、実際の火災事故発生件数は意外にも少ない電気自動車ですが、なぜ「火災を起こして危険」と危惧されるのか、そこには昔ながらのガソリン車とは異なり、それでいてHEVやPHEVと共通する理由があります。

電気自動車に搭載されているリチウムイオン電池について

電気自動車のほとんどで走行用バッテリーに採用されているのは、2024年5月現在ではほとんどがリチウムイオン電池です。


1990年代までは鉛バッテリーを搭載することが多く、現在もトヨタ車体のミニカー、「コムス」などはまだ鉛バッテリーで、その次の世代として採用されたニッケル水素バッテリーも、2020年代に入ってなおHEVに使われています。


しかし、2000年頃から電気自動車やHEVに使われ始めたリチウムイオンバッテリーは、コンパクトで大出力という利点を活かして2010年代からMHEV、HEV、PHEV、BEVといった各種の電気自動車で採用が相次ぎ、今や走行用バッテリーの代表格となりました。


2028年頃から「全固体電池」と呼ばれる次世代バッテリーが本格的に大量生産されるようになり、2030年代にはリチウムイオンに取って代わると見られていますが、まだまだ先の話です。

リチウムイオン電池の発火リスク

リチウムイオン電池自体は電気自動車以外にもスマホや家電をはじめ、さまざまな製品に使われており、特に小型の製品では廃棄時の衝撃による破損などでショートし発熱、発火する「熱暴走」のリスクが知られています。


それは電気自動車でも同じで、製造時の工程に何らかの不備があったり、事故による衝撃でバッテリーパックや配線、制御装置などが破損するなど、何らかの原因でショートした場合は猛烈な熱とともに発火するのは変わりません。


ただし電気自動車だけではなくPHEVやHEV、さらにMHEVでもなくただのエンジン車でも、スズキの「エネチャージ」などガソリン車でも、燃費を向上するべく回生エネルギーで車内電装品用のリチウムイオン電池に充電するような車種だと、発火リスクは同じです。

リチウムイオン電池は一度燃え始めると消火しづらい

ただしリチウムイオン電池で厄介なのは発火リスクというより、「一度発火してしまうと消火しにくい」のが大問題です。


何しろ熱暴走による過熱、過圧のサイクルが発生すると自己発熱がなかなか止まらず、仮に酸素を遮断して火が消えても、電極の活物質が熱分解することによって酸素を放出して再出火しますから、なかなか「鎮火」には至りません。


そのため長時間にわたって大量の放水を続ける必要があるものの、電気自動車のバッテリーは床下配置がほとんどで放水が届きにくく、可能ならば大きな水槽に車ごと沈めて24時間ほど再出火を防ぐ措置が最適なくらいです。


このように一度出火すると大掛かりな消火および再出火防止の作業が長時間にわたって必要なため、大きなニュースになっています。

実際に電気自動車の火災事故が発生した場合の対処方法

実際に電気自動車の火災事故が発生した場合の対処方法

発生してしまうと恐ろしいリチウムイオン電池の火災事故ですから、何も電気自動車に限った話ではなく搭載車全般の話ですが、火災が発生してしまった場合の対処方法は、以下のようになります。


  • 猛烈な勢いで燃え広がるため、ただちに下車して可能な限り車から離れる。
  • 消防への119番通報で、リチウムイオン電池搭載車であること、特に大容量の電池を積むBEV(電気自動車、ピュアEV)であるなら、それを必ず伝える。
  • 周囲への延焼など重大な事故に発展する可能性が高いため、他にも車に関する情報や火災を起こした位置、状況は可能な限り伝える。

火災原因がリチウムイオン電池の熱暴走だった場合は容易に収まらず、BEV以外でもエンジン搭載車なら燃料への引火爆発も併発しますし、まずは身の安全、次に周囲への被害を最小限にするべく正確な通報が大事です。

電気自動車の火災事故件数や発生確率についておさらい

まだまだ普及途上で件数は少なく、発生率もイメージとは裏腹に意外と低い電気自動車の火災事故ですが、それでも電気自動車のイメージに大きな影響を与えているのは発生時に猛烈な勢いで消火に長時間を要する、かなり派手な炎上事故となるからです。


いくら実際の火災発生率は低いといっても、リチウムイオン電池を積まない昔ながらのガソリン車に比べれば急激かつ被害も甚大になるため、そのリスクや発生時の対処法はしっかりと理解しておきましょう。

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