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シャープが「+LDK」でBEV参入!これは新世代の電動ミニバンなのか、それとも住宅の一部となる大型家電か、電気自動車に訪れる新展開?!

電気自動車の本格量販が始まった2010年代、「家電メーカーも自動車メーカーになれる」「長年自動車を作ってきた専門メーカーの真似はできない」という議論は2020年代に現実となりましたが、日本でもシャープが親会社やEVメーカーと組み、電気自動車「LDK+」を発表しました。その概要や将来性を考えてみます。

目次

  1. シャープの「+LDK」とはどんな電気自動車?
  2. 古くて新しい「自動車と住居の一体化」
  3. かつて否定されたドライバーファーストとは異なる価値観

シャープの「+LDK」とはどんな電気自動車?

シャープの「+LDK」とはどんな電気自動車?

立て直しを図るシャープの新たな起爆剤

「目のつけどころが、シャープでしょ」などのキャッチコピーで知られ、「亀山ブランド」など液晶ディスプレイでも一時代を築いた日本の名門家電メーカー「シャープ」ですが、近年は業績不振からの立て直しが必要となり、2016年には台湾のホンハイ(鴻海精密工業)子会社となっていました。


そのホンハイが中核となる台湾の企業グループ「フォックスコン」は、台湾のユーロン(裕隆汽車)と合弁で電気自動車メーカーの「Foxtron(フォックストロン)」を2020年に立ち上げていた…というのが、まず今回の記事のプロローグ。


シャープが2024年9月6日付けで、同9月17~18日に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催する同社の技術展示イベント、「SHARP Tech-Day’24 “Innovation Showcase”」にて、新型電気自動車「LDK+」を公開するという発表には驚きましたが、ホンハイ傘下の家電メーカーとして、ブランドの強みを活かした新コンセプトEVでした。

新世代ミニバンというより、新世代の大型家電?

一見すると短いノーズを持つ、セミキャブオーバー1BOXタイプのバン/ワゴンに見えるLDK+ですが、コンセプトとしては従来型の商用バンや乗用ミニバンというより、「普段は家の一室でもあり、そのまま公道に走り出すこともできるエネルギーユニット」です。


電気自動車として「走る」のは当たり前、「止まっている時間」にもフォーカスして、家に「接続」していれば電力源やリビングのひとつとして、家の外でも快適な室内空間を屋外でも存分に活用でき、近年流行りの車中泊需要にも対応しそうな内容。


プラットフォームはFoxtronが開発し、中国の東風汽車に生産委託している日本のEVファブレスメーカー「フォロフライ」の協力も得て、1BOXミニバン型で必要な走行性能を確保し、居住空間は家電メーカーのシャープが強みを発揮するというコラボ企画となりました。


シャープはこの+LDKと、「人」「住空間」「エネルギー」の3つのつながりで、カーボンニュートラルの実現と、人々に寄り添ったよりよい暮らしの実現を目指していく…としており、電気自動車というよりは「新たな大型家電」と受け取った方がいいかもしれません。

古くて新しい「自動車と住居の一体化」

古くて新しい「自動車と住居の一体化」

車を家に使う文化は古く、家に接続しようという試みもあった

そもそも自動車と家を一体化する、あるいは自動車を家の一部とする、自動車そのものを家や部屋とするコンセプト自体は、そう目新しいものではありません。


日本では馴染みが薄いものの、アメリカなど広大な土地を持つ国では「トレーラーハウス」と呼ばれる、公道の移動も容易な長方形の牽引式住居はポピュラーですし、大型キャンピングカーを自走式住居として使う文化もあります。


また、日本では近年のキャンピングカーブームもあり、大小のトラックから軽トラ、軽1BOX車に快適な居住空間をしつらえて、これも近年増加している「道の駅」も活用し、車中泊の快適性を自宅並に引き上げようという試みも増えました。


自動車を家に接続しようという試みも、トヨタが小型トールワゴンの「ファンカーゴ」(1999年)を開発する際、グループ内の住宅メーカー、トヨタホームとの連携して住宅にファンカーゴを接続し、居住空間の延長として使おうと企画した時期もあります。

電気自動車の登場で、住居と車の関係性にも変化が起きた

ファンカーゴ+トヨタホームの場合は住居からの電力でエアコンや照明など車載電装品を使おうとしたようですが、電気自動車の時代になるとV2H(Vehicle to Home)充放電機能で、「車そのものが家庭用蓄電池」として使えるため、逆に住宅の電力源となる想定。


昼間に太陽光発電で充電して夜間や災害時に車載蓄電池を住居の電力源としたり、余剰電力で夜間の電気代が安いプランを利用できるなら、昼間に出かけていた電気自動車をそれで充電するなど、さまざまな使い方が考えられます。


シャープの+LDkでは太陽光発電を設置するなどしたエコ住宅+V2H接続した電気自動車から、考えを一歩推し進めて家に接続した「部屋の追加」、あるいは「自宅の快適性をドライブ時や車中泊に持ち込む」という、次世代の発想です。


まだモックアップやCGの段階ですが、後席を180度回転して後方に向け、車内後端の大画面ディスプレイで映画などコンテンツを楽しみながらくつろぐなど、家から直接出入りできなくとも「離れ」として使ったり、その「離れ」が移動できるというコンセプトを紹介しています。

かつて否定されたドライバーファーストとは異なる価値観

かつて否定されたドライバーファーストとは異なる価値観

昔ながらの「多彩なシートアレンジ」がさらに進化するかも

このようなコンセプトは、1990年代にRVブームが本格化する前のミニバンでもさまざまなシートアレンジとともに紹介されましたが、当時は主に前席と2列目シート間の床下配置だったエンジンによって、同乗者はともかくドライバーには不評でした。


何しろ2列目/3列目シートで家族や仲間が快適にワイワイやっても、運転席のドライバーは「隔離された運転手扱い」ですし、床下でうなるエンジンや商用1BOXバンベースのサスペンションで、快適性も操縦性もイマイチです。


それが1990年代RVブーム中にFF低床ミニバンが登場、エンジンはフロントに追いやって前席と2列目以降との距離は縮まり、前後ウォークスルーすら可能になって「ドライバーもワイワイ楽しむ乗員の仲間」になれて、ミニバンブームに一役買います。


電気自動車の時代になると、バッテリーやモーターは全て床下に追いやられ、車内スペースは前後をさらに広く取れるようになりますから、シート配置やシートアレンジの仕様は過去の比ではないかもしれません。

半定置式の蓄電池を兼ねたリビングでも、車中泊仕様でも

シャープ +LDKのコンセプトカーでは2列目シートを180度回転させて後方へ向け、そこから後ろを大型ディスプレイつきリビングスペースとして、シアタールームやキッズスペースに使っていますが、運転席と助手席を回転させれば、より広い空間が生まれます。


大画面ディスプレイの代わりに、2列目にプロジェクターとスクリーンを設け、その後方に3列目シートか畳めば荷室にも使えますし、長大なベッドスペースを設けるもよし。


もちろん随所にはシャープの家電製品をオプションで追加し、「普段は動かない、いざとなれば走り出せる自宅リビングの一室であり、半定置式の家庭用蓄電池」となれますし、むしろシャープとしてはそのような使い方を提案しているように見えます。

売り方も従来とは変わるかもしれない

車を運転するのがとにかく好きなユーザーにとって、「ドライバーファーストではない車」は歓迎せざる存在かもしれませんが、価値観が多様化する中で、「自動車に走行する機械としての能力を重要視しない」という価値観があってもおかしくはありません。


ひとつ問題なのは数年内の市販化を目指すとして、「どこで誰が販売し、メンテナンスなどサービスを提供するか」ですが、今は海外で生産して輸入業者や中間業者を経て納車、提携工場でメンテナンスも当たり前ですし、大きな障害にはならなそうです。


あるいは、その頃にはFoxtron(フォックストロン)が日本に上陸してショールームを構えるのかもしれませんし、ヤマダ電機のような家電量販店のほか、住宅展示場に住宅込みで展示するなど、今とは違った売り方だって考えられます。


いずれにせよ、「自動車として考えるか、住宅の一部となる大型家電と考えるか」によって、市販が実現したあとの+LDKは、評価が大きく分かれることになるでしょう。

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