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急速にEV普及率を伸ばす中国の今
公開日:2024/07/16更新日:2024/07/16
EV大国の中国では政府主導でバス、タクシーからゴミ収集車までEV化を目指し、全国レベルで推進している状況。しかしながら、徹底的なEVシフトに取り組む中国でさえも、EVの完全普及まではまだ先の話になりそうです。そこにはガソリン車と比べた際のEVの懸念点や、消費者ニーズなどが関係しています。
着々とEV普及率を伸ばす中国ですが、現在どのような取り組みを行い、今後はどのような戦略で普及を推し進めていくのでしょうか。今回は、EV大国の中国にスポットを当て、現在の動向や今後の戦略などについてお伝えします。
目次
カースモーラちゃんポイント
- EV大国とも言われる中国は、2023年のEV普及率が38%に達したよ。
- EV自体はもちろんだけど、充電インフラの増加やBaaSといったサービスも普及しているんだ。
- 一部メーカーでは操業停止に追い込まれるなど熾烈な争いが繰り広げられているよ。
EV関連サービスも拡大をみせる中国
EVの普及率が年々増加する中国ですが、関連サービスの拡大も同時に推し進めています。
ここでは、充電インフラの設置数の状況や、商用車領域を中心に拡大をみせるBaaS事業などについて説明します。
EVの普及と共に必要不可欠な充電インフラ整備
国際エネルギー機関(IEA)の発表データによると、充電インフラ設置数は年々増加傾向にあり2023年では約270万基に達しています。
2019年から2023年度の販売台数、普及率、充電インフラ数の推移は以下の表をご覧ください。
年度 | 販売台数 | EV普及率 | EV充電インフラ |
2019年 | 約106万台(BEV:約83万台、PHEV:約23万台) | 約5% | 約51万基(普通充電:約30万基、急速充電:約21万基) |
2020年 | 約114万台(BEV:約92万台、PHEV:約22万台) | 約5.7% | 約81万基(普通充電:約50万基、急速充電:約31万基) |
2021年 | 約325万台(BEV:約270万台、PHEV:約55万台) | 約16% | 約115万基(普通充電:約68万基、急速充電:約47万基) |
2022年 | 約590万台(BEV:約440万台、PHEV:約150万台) | 約29% | 約176万基(普通充電:約100万基、急速充電:約76万基) |
2023年 | 約810万台(BEV:約540万台、PHEV:約270万台) | 約38% | 約270万基(普通充電:約150万基、急速充電:約120万基) |
EV普及率において世界を牽引する中国ですが、EV充電インフラにおいても拡大を進めていることがわかります。主に公共充電スタンドを手がけるのは、「特来電(TELD)」「星星充電(StarCharge)」「雲快充(YKC)」「国家電網(State Grid)」「小桔充電(Orange Charging)」の5社で全体の約7割のシェアを占めます。
また「上海汽車集団(SAIC)」「蔚来(NIO)」「Tesla」など一部メーカーも自社による公共充電ステーション建設に力を入れている状況です。
商用車領域を中心に広がりをみせるBaaS事業
EVシフトを着々と進める中国ですが、EVの完全普及まではまだ先の話になりそうです。そこには「充電時間の長さ」「車載電池の劣化」「電池コストが高額」といった課題点が挙げられます。
これらの課題を解決するために技術開発が進められていますが、中国ではBattery as a Service(BaaS)のビジネスモデルが成熟しつつあります。
BaaSとはBattery as a Serviceの略称で、バッテリーのサービス化を意味しています。
BaaSモデルの市場規模は2022年時点で11億4,000万ドル(約1,786億円)と評価されており、2030年には53億ドル(約8,304億円)までに成長すると見込んでいます。
注目を集めるBaaS市場ですが、世界的に見ても中国が大きくリードしている状況です。主にNIO、奥動新能源(Aulton)、吉利汽車(Geely)などが牽引しており、他の企業も多く参入しています。
中国はBaaSを展開する際に、タクシー、ライドシェア、カーシェア、バス、物流車両などの商用車領域において先行してきました。理由としては、このような商用車領域は、自動車の未稼働時間を極力抑え効率的に業務を遂行したいケースが多いためです。
タクシーを例に挙げると、中国北京市のタクシー総数は6万台を超えていますが、そのうち約1万台は電池交換式EVタクシーが導入されています。北京以外の広東省や浙江省でも、タクシーを中心に電池交換式EVを採用する動きが活発化しています。
また、ライドシェア領域においても配車サービスプラットフォームを提供する「曹操出行(CAOCAO)」を中心に、電池交換式EVにシフトする計画を進めています。
中国では、なぜ商用車を中心にBaaSモデルが先行しているのでしょうか。その背景には大きく3つの理由が挙げられます。
まず1つ目は初期投資金額。
タクシーを導入する場合、ガソリン車、充電式EV、電池交換式EVの3つの選択肢が挙げられます。電池交換式EVの場合は、車の全体価格の1/3を占める電池部分をBaaSでレンタルできるため、初期投資は本来の2/3に抑えられます。
次に運営コスト。
中国のBaaS運営モデルは走行距離1kmあたりに対して電池の利用料金を課金徴収し、充電池を交換するというのが主流です。例えば北京汽車の電池交換ステーションの場合、1kmあたりの料金は約6円。ガソリン代の平均はおよそ10円/kmとなっているため、4割程度安くなる計算です。
つまり1日平均300kmを走行するタクシーであれば、月に3万6,000円の運営コストダウンにつながるというわけです。タクシーなどの商用車は稼働率が高いため、電池交換によるコストダウンは月々の収益改善に直結します。また、車載電池の劣化や故障時の交換費用を考慮する必要もない点も大きなメリットと言えるでしょう。
最後に電池交換の手軽さ。
充電式EVは、ガソリン車に比べ充電までの時間がかかってしまうことがデメリットの一つ。しかし交換式EVであれば所要時間は3分弱で済み、完全自動で電池交換が可能です。
タクシー業界は特定地域を中心に稼働することも多く、BaaS事業者としては電池交換ステーションを集中して投入しやすいという背景も普及を促進する要因でしょう。
一部メーカーは資金繰りに苦戦し操業停止
EVにおいて成長をみせる中国ですが、全てのメーカーが順調とはいかないようです。
中国におけるEV販売台数は2023年時点で、約810万台と右肩上がり。しかしながら、メーカーの間では値下げ競争が熾烈化し、価格の安いEVを外国で販売する「デフレ輸出」の脅威が世界に及び始めています。
これにより、一部の新興EVメーカーが操業停止に追い込まれているなど、先行きは不安だと指摘する声もちらほら。
そんな中、2024年には中国の新興EVメーカー「HiPhiHiPhi(ハイファイ)」が操業停止・倒産に追い込まれました。当ブランドは2017年に設立。斬新なデザインと高性能かつ高級感あふれるインテリアで多くの顧客から支持を集め、1,000万円前後の高級EVメーカーとして広く知られた存在でした。
この背景には、中国政府が交付する補助金が関係していたようです。
EVを生産することで一台あたり相当額の補助金を受け取ることができ、この補助金を目当てに多くの新興EVメーカーが誕生していると言われています。
新興EVメーカーは500を超えていると言われていますが、補助金目当ての企業がほとんど。また販売することで少しでも利益を生み出そうと値引きを行うメーカーが増加。これにより中国市場での「EV競争激化」を加速させ、多くのEVメーカーを倒産に追いやる原因を作っているとも言えるでしょう。
中国には多くのEVメーカーが存在しますが、利益を生み出せているのはBYDはじめ数社しかないという状況も報じられています。価格競争が熾烈化してしまえば、利益を出せないEVメーカーはさらに増加していくでしょう。
ハイファイの例は「氷山の一角」でしかなく、すでに複数のEVブランドが消滅の危機にあるとされています。
中国政府がEV普及のために政策を用意したことで、世界でもEV販売を牽引することに成功しましたが、その代償は大きなものだったようです。
世界を牽引するEV大国「中国」の今後
いまや世界最大のEV大国となった中国。しかしながら、前述したように問題が残されているのも事実。
今後、中国はどのようにEV普及を推し進めていくのでしょうか。
政府は農村部を中心に充電スタンドの設置を進める
EV販売台数は向上しているものの、普及しているのは都市部のみです。
そんな中、中国政府は農村部でのEVの普及促進に乗り出しました。補助金制度を用意するなど、充電スタンドの拡充に取り組んでいます。
ただ、農村部に普及しているのは EVではなくガソリン車がほとんど。
例え充電スタンドが増えたとしても利用率が低ければ意味がありません。現状の充電スタンドの利用率は1%程度と言われており、EV自体の普及を進めていくかが鍵となりそうです。
しかしながら、中国電気自動車百人会が発表したレポート(中国農村地区EVモビリティ研究)によると、2030年には農村部の自動車保有台数が人口1,000人当たり160台、総保有台数が7,000万台を超える見通しだと発表されました。将来的に農村部のEV普及に成功すれば、5,000億元(約10兆円)規模の自動車市場を動かすことになりそうです。
都市部だけではなく、市場を拡大した中国はどのような未来が待っているのでしょうか。今後の動向に注目です。
EV事業へ異業種の参入
近年、異業種のEV参入も目立ち、スマートフォンメーカー「Xiaomi(シャオミ)」や通信機器大手の「華為(ファーウェイ)」などが注目を集めています。
シャオミは2021年にEV事業をスタート。2024年4月には最長走行距離は830km、最高時速265kmと高性能をうたいながら販売金額は450万円からと、価格を抑えたEVを発表しました。
3月下旬から予約販売を始め、販売開始から1か月足らずで7万5,000台を超える受注を獲得したようです。
ファーウェイもEV事業に乗り出しています。
スマホやノートパソコンなどをメインに事業を展開していますが、通信分野での強みをいかし、自社が開発した自動運転システムやソフトなどを自動車メーカーに提供するビジネスモデルを構築。
自動車メーカー「奇瑞汽車(Chery Automobile)」や「重慶長安汽車(Changan Automobile)」など、複数の自動車メーカーと提携しています。また、中国の車載電池大手のContemporary Amperex Technology(CATL)とも2022年に連携したことでも話題を集めました。
輸出も視野に入れEVシェアの拡大を目指す
EV販売台数が右肩上がりになっている中国EV市場ですが、メーカーが注目しているのが輸出業です。国内に多くのEVメーカーがひしめく中国では、諸外国に輸出することで更なるシェア拡大を目指しているようです。
広東省深圳市に本社を置く「BYD」は、EVの普及率が高まっているヨーロッパに輸出をスタート。
市場シェアの5%を獲得する目標を掲げ、ヨーロッパ最大の市場であるドイツへの攻勢を加速させています。首都ベルリンをはじめ各地に販売店をオープン。さらに、多くのユーザーに自社EVの魅力を感じてもらうために、レンタカー市場にも進出しています。
BYD以外にも、中国の新興メーカーも含め複数のメーカーが進出。中国新興EVメーカーの御三家の一角「小鵬自動車(シャオペン)」や、中国三代自動車メーカーの一つにも数えられる「上海汽車集団」などが参入しています。
カースモーラちゃんまとめ
2023年のEV普及率は38%に達し、着々と推し進められているよ。
EV自体の普及はもちろんだけど、充電インフラやBaaS事業なども拡大しているんだ。でも、メーカーの間では値下げ競争が激しさを増し、一部のメーカーでは操業停止に追い込まれているの。
今後は、都市部から農村部へと市場を拡大するとともに、ヨーロッパを中心にEVを輸出しシェアを広げていくみたいだね。また自動車メーカーだけではなく異業種の参入も目立ってきているよ。
まだまだEVの完全普及は先の話となりそうだけれど、紹介した戦略がどのような影響を与えるのか注目だね。