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アメリカ大統領選挙がEV普及に与える影響

長きにわたり電気自動車(EV)市場の頂点に君臨したテスラを有し、カリフォルニア州やニューヨーク州をはじめとした主要都市で2035年までにガソリン車の新車販売を禁止することを発表するなど、一見すると順調に進んでいたかに見えるアメリカのEVシフト。

しかしながら近年のEV低迷やBYD有する中国勢の台頭、ハイブリッド車(HV)再注目を受け現在ではその流れが変わりつつあります。

2024年11月5日に控えたEV推進派のバイデン氏とアメリカファーストを掲げるトランプ氏による大統領選挙も、これからのアメリカのEV普及を大きく左右する出来事となるでしょう。

今回は現在のアメリカのEV市場やその要因を振り返りつつ、アメリカの大統領選が今後のEV普及に与える影響についてお伝えします。

目次

  1. EV普及が伸び悩むアメリカ市場
  2. 勢いを見せるBYD有する中国のEV市場
  3. アメリカの大統領選挙がEV普及に与える影響
  4. トランプ氏再選の場合、アメリカのEVシフトは停滞するのか
カースモーラちゃんポイント
  • 現在、アメリカ国内ではEVシフトが減速しているみたい。
  • それにはテスラの人気低迷や、中国のBYDが勢いを増していることも関係しているんだ。
  • 11月に控えた大統領選挙の結果によっては、これまでのEV施策が覆る可能性もあるよ。

EV普及が伸び悩むアメリカ市場

EV普及が伸び悩むアメリカ市場

順調に見えたアメリカ国内のEVシフトは、2023年度より減速の流れを見せています。


2023年度のアメリカのEV販売台数は約119万台、新車販売台数におけるシェアは約7.6%でした。前年度にあたる2022年度の販売台数は約81万台と、2021年の約49万台から約65%増加したのに対し、2022年〜2023年度の増加率は約47%にとどまっています。


EVが伸び悩む一方、現在のアメリカ市場で再び注目を集めているのがHVです。2023年度の新車販売台数においてHVは前年比65%増の124万台を記録し、EVを大きく離しました。


加えて、バイデン政権が2023年4月に発表した新基準の排ガス規制に対して自動車業界からの反発が大きく、規制緩和を余儀なくされたことも影響していると言えるでしょう。


当初の規制案は2032年までに二酸化炭素(CO2)排出量を2026年と比較して56%削減することを目標に、2027年から段階的に規制を厳しくするという内容。これにより、2032年時点でアメリカ国内のEV普及割合は67%まで大幅に増加するとの見通しが立てられていました。


しかしながら、見直しを求める一般意見が多数寄せられ、さらに自動車業界からも規制に対する反発が大きかったこともあり、2024年3月20日発表の最終案では2027〜2029年の規制を緩和。国内のEV普及割合の目標を35%に下方修正しました。


特筆すべきは新車販売におけるZero Emission Vehicle(ZEV)の範疇にプラグインハイブリッド車(PHV)やHVが加わった点です。これはEVシフトが減速している現状を鑑みた結果、CO2排出量削減目標の達成にはPHVやHVが必要だと判断したということ。


これらは拡大を続ける中国のEV市場や、2024年11月5日に控える大統領選挙を見据えたうえでの決断と言えるでしょう。

勢いを見せるBYD有する中国のEV市場

勢いを見せるBYD有する中国のEV市場

アメリカのEVシフト減速には、長らくEVシェア首位に君臨していたテスラの人気・販売低迷も関係していると言えるでしょう。その背景には、中国のBYDが2023年第4四半期において過去最大の販売台数52万6,409台を記録、EVシェアの頂点に君臨していたテスラを抜き、EV販売台数トップの座を獲得した出来事があります。


テスラはこれまで人気車種の「モデルY」、「モデルS」の2車種を筆頭に、競合他社に圧倒的な差をつけて世界一のEVメーカーとしての地位を確立していました。2022年度のアメリカ国内のEV販売シェアではなんと、テスラが65%を占めています。


しかしながら、2023年度になるとその人気は徐々に低迷し、第4四半期ではついにBYDにその座を奪われました。その一つの要因となっているのがNEV補助金の終了を皮切りにはじまった中国市場での価格競争です。


2022年の年末、これまで中国のEVシフトを力強く支えてきたにNEV補助金が終了し、その直後の2023年1月にテスラは値下げを行いました。それに競合メーカーが追随し、価格競争が勃発。


低価格化が進むも、これまでEVの主流とされてきた三元系バッテリーよりも低コストな独自開発のLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリー「ブレードバッテリー」を引っ提げたBYDに及ばず、首位を奪われる結果となりました。

アメリカの大統領選挙がEV普及に与える影響

アメリカの大統領選挙がEV普及に与える影響

2024年11月5日に控えた大統領選挙。その候補者の民主党の現大統領ジョー・バイデン氏と、共和党の前大統領ドナルド・トランプ氏両名のEVに関する主張が真っ向から対立していることから、どちらが当選するかによって今後のアメリカのEVシフトが大きく左右されるとして大きな注目を集めています。


前述の通り、再選を目指すバイデン氏が掲げているのは新基準の排ガス規制によるZEV推進。2024年3月20日発表の最終案では従来の2032年までにEV普及率を67%にする目標から35%まで引き下げられたものの、CO2排出量の削減やEVの普及を目的とする姿勢は崩していません。


一方でトランプ氏が掲げているのはアメリカファースト。自国の産業や雇用を守るためには、強硬姿勢も辞さない考えです。バイデン氏が掲げるEVシフトは、自動車業界における労働者の雇用喪失を招くと批判しています。


それに対してバイデン大統領は2024年5月14日、中国の不公正な貿易からアメリカの労働者を守るため、中国のリチウムイオンバッテリーや半導体をはじめとしたEVに関連する品物に対する関税の引き上げを発表しました。


苦戦するアメリカのEV普及状況からも読み取れる通り、テスラがBYDに首位を奪われた出来事など、中国の優勢が国内のEV市場に大きく影響を与える可能性を危惧しての決断と言えるでしょう。

トランプ氏再選の場合、アメリカのEVシフトは停滞するのか

トランプ氏再選の場合、アメリカのEVシフトは停滞するのか

トランプ氏が再選した場合、アメリカのEVシフトは停滞する可能性が高いでしょう。


EVシフトに対して否定的なトランプ氏は、2023年5月11日にCNNに出演した際、2008年の共和党大会で石油採掘促進のスローガンとされた「Drill, baby, drill」を実施すると発言しました。その内容からもわかるとおり、トランプ氏はエネルギー源に石油やガスを利用することに対して肯定的です。


さらに、バイデン氏がこれまで実施してきたEV普及のための施策の廃止や、メーカーの全体出荷台数を加味した平均燃費により規制をかけ、自動車の価格を引き上げるとされているCAFE(企業別平均燃費基準)の廃止を掲げているのも注目すべき点。


このように徹底したアメリカファーストを掲げるトランプ氏が再選する可能性が残されている以上、自動車メーカーはEVに完全に移行するのを躊躇してしまうのは当然の流れといえます。


トランプ氏が再選した場合、アメリカ国内に大規模な工場を構え雇用への貢献が大きいかつ、これまでHVに力を入れてきたトヨタが一人勝ちするシナリオも現実味を帯びてくるのではないでしょうか。

カースモーラちゃんまとめ

今回は大統領選がアメリカのEV普及に与える影響についてお伝えしたよ。

2023年度よりアメリカのEVシフトが減速傾向にある一方で、HVは好調に推移しているよ。BYD有する中国のEV市場が急拡大していることも、その一因になっているんだ。

それにより、バイデン政権は2024年3月20日発表の最終案では当初掲げていた規制を緩和。加えて目標の達成にはPHVやHVが必要だと判断し、ZEVの範疇にPHVやHVも加えたんだ。

そして、アメリカのEVシフトの今後に大きな影響を与えると言われているのが、2024年11月5日に控えた大統領選挙。現大統領ジョー・バイデン氏はEVシフトを、対する前大統領ドナルド・トランプ氏はEV普及のための施策の廃止を宣言しているなど、両者の主張は真っ向から対立しているみたい。

アメリカのEV市場の行方は、大統領選にかかっていると言っても過言ではないんだ。今後もアメリカの動向からは目が離せないね。

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