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自動車メーカーが描く全固体電池を活用した将来展望

現在、世界的に推し進められている電気自動車(EV)シフト。中国がリードしていますが、日本をはじめ次なる一手を模索しています。

完全EV化に向け苦戦が続いていますが、EVに「全固体電池」を搭載することで新たな道が開けそうです。従来のEVにはリチウムイオン電池が採用されていますが、全固体電池に変更することで多くの効果が期待できます。

EVにおける全固体電池の採用は、まだ先の話となりそうですが自動車メーカーを中心に研究開発を進めています。ただ、EV搭載までには様々な課題をクリアしなければいけません。

当記事はEVにおける全固体電池の実用化に向けた、日本企業の取り組み状況や今後の将来像について考察します。

目次

  1. 全固体電池とは
  2. 全固体電池を導入することでのメリット・デメリット
  3. 国内大手自動車メーカーの動向
  4. 全固体電池は実用化は可能なのか
カースモーラちゃんポイント
  • 次世代電池として全固体電池が注目されているよ。
  • リチウムイオン電池に比べ、導入することでのメリットも多く実用化が期待されているの。
  • 日本の自動車メーカーでも様々な取り組みが実施されているんだ。

全固体電池とは

全固体電池とは

全固体電池の概要

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池と異なり、液体電解質の代わりに固体電解質を用いた新しいタイプの電池です。


電解液がないことで、正極と負極の間に電解質セパレーター層のみが存在し、従来のセパレーターとは異なり、固体電解質がセパレーターの役割を果たしています。


現在、EVに搭載されるリチウムイオン電池は、液体の電解質を介してリチウムイオンがマイナス極からプラス極へと移動することで電流が発生します。


全固体電池も基本的な原理は同じですが、電解質が固体である点が大きな違いです。ただし電解質が全て固体になると、粒子と粒子の間の境界部をイオンが通りにくくなることが課題として挙げられます。


リチウムイオン電池に比べ、搭載することでのメリットは多いですが、解決しなければならない課題も多い状況です。次世代電池として大きな可能性を秘めている全固体電池ですが、現段階では残念ながら実用化には至っていません。

次世代電池として期待される全固体電池のこれまで

初めて電池が開発されたのは1950年代後半のこと。


全固体電池のみの歴史を振り返るならば、その始まりは1830年代まで遡ります。アメリカの化学者であるマイケル・ファラデー氏は、固体物質が電気伝導性を持つ可能性を示唆する研究を進めていました。


当時、複数の電気化学システムで銀イオンを使用した固体電解質が採用されていましたが、エネルギー密度やセル電圧が低く、内部抵抗が高いなど性能が低いものでした。


1990年代に入ると、アメリカのオークリッジ国立研究所が充電しながら繰り返し使える電池を発表。これがリチウムイオン電池の始まりです。


2000年代に突入すると全固体電池の研究開発が活発化し、様々な業界が固体電池技術への研究を進め始めます。


2011年、フランスに拠点を置く運送企業「ボロレ」は固体電池を搭載した試作自動車「BlueCar」を発表。この試作車は、リチウム塩を共重合体(ポリオキシエチレン)に溶解させた高分子電解質を用いた30kWhの金属リチウムポリマー電池(LMP)を搭載したモデルです。


また2011年の日本では、東京工業大学などの研究グループがリチウムに硫黄やゲルマニウムを混ぜることで、室温でリチウムイオンが固体中を液体中よりも速く移動する「超イオン伝導体」の発見に世界で初めて成功を収めます。その後2016年1月、リチウムイオン二次電池の3倍以上の出力特性を持つ硫化物系固体電解質の開発にも成功しています。


この出来事をきっかけに、全固体電池の研究開発が活発化。2017年、リチウムイオン二次電池の共同発明者であるジョン・グッドイナフ氏が、ガラスの電解質と安価なアルカリ金属の負極を用いた全固体電池を開発しました。


その後も多くの企業やメーカーが研究開発を進め、全固体電池を搭載したEVの実用化に向け取り組みを強化しています。これまで築き上げられた歴史をもとに、現在も開発が進んでいる状況です。


全固体電池の世界市場は2022年では60億円でしたが、2040年にはなんと3兆8,605億円にまで成長すると見込まれています。


次世代電池として、多くの期待を集める全固体電池。自動車だけではなく、産業機器やスマートグリッドなど、様々な分野での応用が期待されています。

全固体電池を導入することでのメリット・デメリット

全固体電池を導入することでのメリット・デメリット

劣化しにくく安全性が高い全固体電池

今後、全固体電池がEVに搭載されることで、様々な効果が期待できます。


現在、採用されているリチウムイオン電池には、電解液に有機溶剤系の材料が用いられています。そのため、液漏れや発火・破裂などが生じてしまうことも少なくありません。


液漏れが発生してしまうと、電子機器の損傷はもちろんですが、火災の危険性も高まります。


また、リチウムイオン電池ではリチウムイオンだけではなく、他の物質も電解液内を移動します。これにより、本来起こるべき反応以外の副反応が生じてしまうことも懸念されているのです。


一方、全固体電池は固体電解質のため、不要な物質が移動することはありません。そのため、リチウムイオン電池のような副反応が起こりにくく、劣化しにくいことがメリット。


また全固体電池では固体電解質を使用するので発火などの危険性が低く、リチウムイオン電池よりも安全性が高いこともポイントです。

製造コストと電解質の材料開発が実用化に向けた鍵

全固体電池をEVに採用することでのメリットはあるものの、まだまだ実現までの課題は多い状況です。全固体電池の普及に向け、大きく2つの課題が挙げられます。


まずは、全固体電池にかかる製造コスト。


全固体電池にかかる製造コストは、リチウムイオン電池に比べ4〜25倍のコストがかかります。また全固体電池専用の生産設備の導入も必要です。


2つ目の課題は、優れた電解質の材料を開発することが求められています。


現在、全固体電池に使用される電解質の素材は、酸化物系(セラミック系)・硫黄物系・ポリマー系の3つ。


その中でも耐久性の高さと寿命が長い酸化物系は、容量が小さいことがデメリット。そのため大容量・高出力が必要なEVには不向きと言えます。


硫黄物系の素材は大容量・高出力で、製造方法や素材の選択の幅が広いことが特徴。しかしながら、硫黄を含む化合物が主原料のため、発火や硫化水素の発生リスクが考えられます。


ポリマー系は弾力性がある素材のため、充電・放電の繰り返しや温度変化による劣化を防げると期待されています。ただし、容量の少なさや安全性の面で課題が残っている状況です。


それぞれEVに搭載する上で、メリットもありますが課題も残ります。今後、電解質の材料を新たに開発するか、現在使用されている素材のアップデートが求められています。

国内大手自動車メーカーの動向

国内大手自動車メーカーの動向

全固体電池の実用化は現段階では難しいですが、自動車メーカーを中心に開発を進めています。ここでは日本の自動車メーカーにスポットをあて、全固体電池の取り組みについて紹介します。

電池の特許取得数で世界首位に立つトヨタの戦略

愛知県に拠点を置くトヨタ自動車。


日本のみならず、世界的にも自動車業界を牽引する有名メーカーですが、全固体電池についても研究開発を進めてきました。トヨタは電池の特許取得数で世界首位と技術面でもリードしており、その数は1,000以上の関連特許を保持しています。


トヨタが全固体電池における要素技術の研究開発を開始したのは2006年のこと。


2020年8月には、全固体電池を搭載した車両でナンバーを取得し試験走行を実施。これを皮切りにBMWや現代自動車、ホンダ、日産、その他電子部品メーカーなども、全固体電池の実用化に向け研究開発を加速させるきっかけとなりました。


その後2022年6月には、国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS)が設立した「全固体電池マテリアルズ・オープンプラットフォーム」にトヨタが参画。


2023年10月に出光興産との協業を発表。同社は、硫化物系の固体電解質の研究を2001年からスタートしました。


トヨタと出光は、2028年までに全固体電池の実用化に向け、硫化物固体電解質と全固体電池の量産化技術の確立を目指しています。硫化物固体電解質は安全性や耐久性といった課題が残りますが、EVなど車載用電池での活用が期待されています。


実用化されれば、EV市場の勢力図を塗り替える可能性は高いのではないでしょうか。今後の動向に注目したいところです。

EVまたは二輪車への導入を進めるホンダ

東京都の本社を構えるホンダも、全固体電池の実用化に向け取り組んでいます。


2022年に、韓国電池大手のLGエネルギーソリューションと、アメリカでEV向け電池工場を新設すると発表。投資額は44億ドル(約6,100億円)で、初の自社専用のEV電池工場です。


また、2024年には全固体電池の実証ラインを稼働させることも発表。これは栃木県さくら市の研究施設内で実施され、性能や量産のための技術的な課題を検証することが目的です。


ホンダは全固体電池を自社開発し、2028年にEVへの搭載を目指しています。それと同時に、世界首位を走る二輪車への導入も想定しているようです。

硫黄系の原料採用に向けて研究を進める日産

日産も2028年に全固体電池を搭載した、EVモデルの発表を見据え動き出しました。


2021年、EV向け全固体の試験設備を設立し、硫黄物系の原料採用に向け研究を進めています。


また全固体電池のパイロット生産ラインを2024年度中に導入を進め、品質検証を推進する構えです。さらに2025年に向け、横浜工場へのクリーンルームや付帯装置の工事を進行中です。


このように生産技術の開発を促進し、2026年度を目処に試作車による公道テストを開始する見込みを立てています。

全固体電池は実用化は可能なのか

全固体電池は実用化は可能なのか

全固体電池の実用化に向け、日本のみならず世界的にも取り組んでいます。各国、戦略は様々ですが全固体電池を搭載したEVの市場投入は目前となりつつあるようです。


今後、課題となるのは開発だけではなく、素材・⽣産設備などの重要技術を維持しつつ、サプライチェーン全体の維持・強化が求められています。


全固体電池の実用化が期待されている一方、リチウムイオン電池の進歩も見逃せません。


東洋紡では自動車や電子材料向けの高機能樹脂(プラスチック)を増産するため、2024年に60億円を投じ新製造設備を導入しました。これはリチウムイオン電池の接着剤として活用される見込みで、EVバッテリーやモーター、電子機器関連の素材として期待されています。


これからの時代は、既存のリチウムイオン電池と次世代の全固体電池が共存する時代がやってくるのではないでしょうか。


多くの自動車メーカーが取り組む全固体電池を搭載したEVの実用化ですが、リチウムイオン電池がなくなることはありません。


例え全固体電池が実用化されたとしても、それは一つの選択肢であってEVが普及していく中、リチウムイオン電池の供給量も増えてくるでしょう。


全固体電池の実用化が実現すれば、自動車業界に大きな変化が訪れます。引き続き研究開発に期待したいところです。

カースモーラちゃんまとめ

EVシフトが進む中、全固体電池の導入が検討されているよ。

従来のリチウムイオン電池に比べ劣化しにくく、安全性も高いんだ。ただし、全固体電池にかかる製造コストはリチウムイオン電池に比べ高く、優れた電解質の材料を開発することが今後の課題だよ。そのような課題解決に向け、多くの自動車メーカーが取り組んでいるんだ。

全固体電池を採用したEVが登場するのも時間の問題かもしれないよ。どの自動車メーカーが先手を打つのか見逃せないね。

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