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EV充電器Terra Charge (画像はプレスリリースより)

インドでEV3輪シェアNo.1!日本発ベンチャーTerra Charge  EV充電インフラ事業も国内外で急拡大。その訳とは

東京・港区に本社を構えるTerra Charge株式会社は、国内・海外で充電インフラを提供している。「すべての人とEVにエネルギーを。」力強い企業ミッションの根源には、アジア地域でEV3輪事業を手掛け、大国インドでEV3輪シェアナンバーワンを達成した実績と経験がある。取締役・CTO(最高技術責任者)である高橋 成典氏に、インドでのEV3輪事業大ヒットの背景や充電インフラに注目した理由、EVに感じた未来・展望を、事業にかける熱意とともにうかがった。

TEXT&PHOTO:石原健児

目次

  1. EV事業を旗揚げ、インドでシェアトップを獲得
  2. 思わぬ売上不振、戦略の練り直しで業績が劇的に改善
  3. 充電インフラへと事業を拡大、その背景とは
  4. 2年で国内2万5000口の充電器を受注
  5. EVに感じた未来
  6. 海外で得た知見が事業改善のヒントに
  7. EV普及には、インフラ整備が重要

EV事業を旗揚げ、インドでシェアトップを獲得

Terra Charge株式会社 取締役・CTO(最高技術責任者)高橋 成典氏 (画像はTerra Charge提供)

「当社はもともと、インドやバングラディッシュ、ベトナム、ネパールなどアジア地域でEV2輪や3輪の小型モビリティ事業を手掛けてきたメーカーです」。高橋氏は、これまでアジアで行ってきたEV事業の経緯を語ってくれた。同社は2010年にTerra Motors 株式会社として創業。Sonyのトランジスタラジオ、Hondaのスーパーカブのように“日本発、世界一”のプロダクト発信を目指し、EV2輪から始めたe-Mobility事業は、その後EV3輪も加えラインナップを拡大。インドでは庶民層を中心に、その経済的メリットが受け入れられ大ヒットとなった。


その背景を高橋氏は語る。「インドの例を挙げると、ガソリン価格は日本もインドも大きく変わりません。ただし、所得に対するガソリン価格の支出割合は、インドが圧倒的に大きい。一方、電気料金は日本に比べて安価で、ランニングコストが圧倒的に良いのです」。そこに目をつけた高橋氏は、まず、庶民の足である3輪タクシー業者や低所得者をターゲットに事業を開始した。


高橋氏の狙い通り、2014年に開始したe-Mobility事業は好評を博した。大国インドでは、庶民にとって重要な交通手段である自動三輪車(オートリキシャ)の乗合タクシー市場でトップシェアを獲得し、ユーザーから揺るぎない信頼を得た。事業開始からわずか4年の成果だ。

思わぬ売上不振、戦略の練り直しで業績が劇的に改善

高橋CTOはハードウェア・ソフトウェア開発領域の陣頭に立つ (画像はTerra Charge提供)

インドでトップシェアを獲得したとはいえ、e-Mobility事業は最初から順風満帆だったわけではない。「インドへの進出当初はマーケットを把握していなかったため売り上げが伸びず苦労しました」。ホンダやヤマハのパーツを使い、ジャパニーズクオリティを前面に押し出したところ、価格は他社に比べ30%ほど高額に。ターゲットには価格にシビアなユーザーが多く、当然ながら売上は伸び悩んだ。


そこで、思い切ってデザインや価格帯など商品戦略を一から見直した。「部品の購入経路を見直し、インド国内の企業だけでなく、海外の仕入先を開拓。サプライヤーネットワークを広げました」。その結果、価格は地元企業と同レベルまで改善。売上は劇的に向上した。


同社が提供するEV車は、今や「ジャパニーズ・ブランド」ではなく「Terra Motorsブランド」として大きな信頼を得るようになった。金融事業、EV充電などとともに、トータルソリューションでEV社会の発展に貢献している。

充電インフラへと事業を拡大、その背景とは

好調に推移しているEV事業からEV充電インフラへと事業の裾野を広げたのはなぜなのか?高橋氏は社会情勢の変化をあげる。「私がTerra Motors株式会社(現:Terra Charge株式会社)に入社した2014年当時、中国やヨーロッパでEVが普及し始めていました。一方、日本ではまだEV導入には慎重な意見が多く、私の周囲でも『EVなんて、いらないよね』という声も多く聞かれました」。


しかし、ここで潮目が変わる。2021年12月、トヨタがバッテリーEV戦略に関する説明会を開催、本格的なEV車開発に乗り出したのだ。政府もクリーンエネルギー車や充電インフラの普及への補助金を増額するなどEV普及への機運が高まった。EVに対する流れの変化を感じ、Terra Motors内では、日本国内のEV事業について模索した。


当初、海外でのEVメーカーの実績を背景に国内での自社EV製造も考えた。しかし日本国内では、すでにEVのOEMを手がけている先行企業が数多く存在する。「改めて日本市場に目を向けてみると、当時EVの充電インフラに力を入れて取り組んでいる企業はありませんでした」と高橋氏。この分野であれば、自分達が日本のEV普及に貢献できるのではないか、という結論にたどり着いたのである。


2022年4月Terra Motors株式会社は記者会見を開き、EVインフラ事業への参入を発表した。提供するEV充電サービス名は「Terra Charge(テラチャージ)」と名付けた。

2年で国内2万5000口の充電器を受注

2年間で2万5000口の充電器を受注、右肩上がりの数字だ (画像はプレスリリースより)

EVの充電利用シーンには、自宅や仕事先で行う「基礎充電」、高速道路など目的地への移動途中で行う「経路充電」、滞在する目的地で行う「目的地充電」がある。Terra Motors株式会社はこれらすべての充電シーンに対応できるよう、個人宅から商業施設まで幅広い施設へのEV充電インフラの拡充を進めてきた。「基礎充電、目的地充電、経路充電の全てに対応するのが当社の強みです」(高橋氏)。ユーザーは1つのアプリで、どこでも充電できるため利便性が高い。


充電スポットのニーズに応え「EVコンセント」「普通充電器」「急速充電器」「超急速充電器」の各充電器に対応しており、充電スポットの検索から、充電器の利用、料金の決済まで、すべてスマホアプリで完結する。EVコンセントとアプリは自社開発で、これまでの知見を活かしIOT化。使用するパーツは日本製にこだわった。


立ち上げからわずか1年9か月でEV充電器の受注数25,000口を突破した。2022年度当初50億円だった各種の補助金は23年度は175億円、2024年度は360億円へと年々増えており、国もEV充電インフラの普及を後押ししている状況が続いている。


2024年2月、Terra Motors株式会社は社名をTerra Charge株式会社に変更した。国内以外にもインド・タイを始めとした海外にもEV充電事業を展開し、世界的なEV需要増加を背景にEV充電器の普及に一層力を注ぐ。

EVに感じた未来

高橋氏は、現在月の半分ほどを海外で過ごす。CTO(最高技術責任者)の肩書を持ちながらハードウェア・ソフトウェアの開発を担当するなど、その業務は幅広い。製品とアプリケーションの製造ラインの策定のほか、現地スタッフの雇用、開発チームの立ち上げなどにも携わる。原動力となるのは、EVへの興味だ。高橋氏は工学系の大学を卒業後、大手メーカーで4輪のエンジン製造(生産技術)に携わった。


大学時代、トヨタのプリウスとインサイトが発表された。「今後の自動車業界はEVが主流になるかもしれない!」。未来を感じた高橋氏はEV開発に興味を持った。しかし、世間のEVへの関心は現在よりも低く、開発もまだ黎明期。そこで、高橋氏は、大手メーカーという庇護を離れ、2014年にTerra Motorsの門を叩いた。SonyやHondaのように“日本発、世界一”を、という企業理念にも魅力を感じ、入社を決意した。

海外で得た知見が事業改善のヒントに

「すべての人とEVにエネルギーを。」Terra Charge株式会社のミッション (画像はプレスリリースより)

海外事業に携わるようになり、高橋氏は海外で事業を行う難しさと楽しさを感じるようになった。特に印象的だったと語ってくれたのはインドの事例だ。例えば日本では新製品の発表は、時間をかけて準備し、満を持して行うことが多い。しかし、インドではスピード重視でローンチを行い、改善点があれば修正していく。まず製品・サービスを消費者のもとに届け、市場の声を取り入れながらブラッシュアップしていくのだ。


商品やサービスの提供後に問題が起こることも少なくないが、スタッフもユーザーも問題発生への許容度が高い。「インドの場合、問題が起きたら対処するジュガード精神(インドに古くから根付く精神で問題解決の方法)が根付いているためだと思います」


また、インドでは商品の開発サイクルが早い。高橋氏は、日本と比較して半分ほどの時間と感じたという。問題改善のサイクルも早く、その結果として新たなことに挑戦できる機会も増える。「国により文化や風土は違います。求められる製品帯や機能も違うので、社会やニーズの調査はしっかりと行うように心がけています。」と高橋氏は語る。「数字では表せない感覚値を調整しながら、スタッフの育成や商品のローンチを行います。そこが大変なところであり、面白いところでもありますね。」


海外での開発経験のおかげで、高橋氏は、力を入れるべき開発プロセスがわかるようになった。「ここは後々問題になりそうだと感じるプロセスには時間をかけて向き合い、改善します」。国内での商品開発は、企画からローンチまで半年ほどと約2倍スピードアップした。


さらに、海外事業では思わぬ副産物もあった。EV充電器を展開した各国で得た課題やフィードバックをほかの国の商品改善に活かすことができるのだ。EV導入が進む国々でのセキュリティ面の課題などから得たものは大きい。

EV普及には、インフラ整備が重要

どこでも安心してEVで出かけられる環境づくりが必要 (画像はTerra Charge提供)

ところで、日本のEV普及の障壁は何だろうか。「日本でEVの普及が進まないのは、EV充電インフラの整備が十分進んでいないことが原因です」と高橋氏は語る。EVの普及を加速化するためには、まず充電インフラの整備が必要だ。充電設備が少ない環境では、ユーザーはバッテリーの残量、充電スポットの場所、走行可能な距離、などさまざまな不安と向き合わねばならない。しかし、Terra Chargeであれば、アプリ上の地図で充電スポットを容易に探すことができるので、外出先でも心配になることがない。


Terra Chargeを導入したユーザーからは「充電がとても便利になった」との声が多く聞かれる。「仕事や外出から帰宅後、車を停めてそのまま充電を開始し、朝起きたら満充電になっているので、利便性が向上したという声をいただきますね」。こうしたユーザーの声を耳にするたび、高橋氏は自宅で簡単・手軽に充電できる環境の大切さを痛感する。最近では、既にEV充電設備を導入している商業施設からも「自社で提供しているアプリとTerra Chargeの連携ができないか」という相談が寄せられるという。


便利になったとはいえ、ガソリンスタンドに比べると、EV充電スポットの数はまだまだ足りない。しかし「Terra Chargeのアプリを開けば、利用可能な充電スポットが見つかる。」高橋氏は、そんな充電インフラ整備を進めていきたいと考えている。「目的地充電や経路充電の設備はもちろん必要ですが、最終的にはすべての人が自宅で簡単に充電できる環境が理想です」EV充電インフラはまだ黎明期だと高橋氏は語る。「まずは日本各地へのインフラ整備を進め、現在の2万5000口から、2027年度中に3万か所、10万口の目標を設定しています」。


『すべての人にEVとエネルギーを』Terra Charge株式会社のミッションはこれからも続く。

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