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EVはカスタムできる?チューニングメーカーが手掛けるEVパーツのこれから

現在のEVではチューニングするのは難しいといわれています。そのため外装パーツ、足回り、ホイールのカスタムがメインとなっていますが、今後EVの需要が高まってくると「人とは違う車にしたい」というニーズは確実に増えるでしょう。EVのチューニングは果たしてできるのか、現状とこれからのチューニングメーカーの動向をご紹介していきます。

目次

  1. EVチューニングの限界とは?
  2. 各チューニングメーカーが手掛けているパーツを紹介
  3. まとめ:カスタムはOK!でもチューニングメーカーには課題も

EVチューニングの限界とは?

EVチューニングの限界とは?

まずはカスタムとチューニングはどちらも車を改造する意味で使用されていることが多いですが、仕様においては少し違いがあります。簡単に説明しておきましょう。

カスタムとチューニング

・カスタム


カスタムは本来「カスタマイズ」のことで、ドレスアップといわれることも多いです。車の外装などの見た目を、自分好みのデザインに変更することをいいます。例えばローダウンにホイール交換など足回りを重視した「スタンス系」、アニメのステッカーをボディ一面に施し、車内にはぬいぐるみを置く「痛車」。


そのほかにもアメリカ西海岸で流行った「スポコン」はスポーツコンパクトの略称です。日本のスポーツカーをカスタムすることで、1990年代に日本に逆輸入され、日本でブームになり独自に進化していきました。


そのほかにも「VIP系」といわれるもので、高級セダンにラグジュアリーを強調させたエアロパーツやホイールを装飾するカスタムなどもあります。


・チューニング


一般的に車の性能向上を図るために行われるもので、ボディ剛性強化のための補強パーツ取り付けや足回りの強化。エンジンパワーの向上や軽量化など多岐に渡るパーツの交換を行うことをいいます。


例えば過給機の取り付け、マフラー交換、コンピューターの調律、ブレーキの強化など書ききれないほどのチューニング項目が挙げられるでしょう。

EVでもカスタムはできる

EV車であってもボディや足回りはガソリン車と同様に個性のあるカスタムを行うことは可能です。他人との差別化を図るためにドレスアップや快適性を向上させるためのカスタムは今後も大きく展開されると考えられます。


『東京オートサロン 2024』に登場した『ヒョンデ IONIQ 5 N』 は、ヒョンデが参戦したラリーやレースなどのモータースポーツの技術がフィードバックされ、市販車に還元することを実現しました。「IONIQ 5 N」をベースにしたコンセプトカー「NPX1」ではカーボン製の空力パーツ、レーシングバケット、高性能ブレーキパッドなどを搭載した定番のカスタムです。


将来的には「Over The Air」技術を使用して、エンジンサウンドをダウンロードしたり、ドライビングのセッティングを仲間と共有したり、有名ドライバーのセッティングを試すことができるような体験を実現させたいという構想もあるようです。


自動車メーカーのチューニングブランドとして有名なところでは、『メルセデス・ベンツ』の「AMG」はF1で培ったテクノロジーを搭載し、電動モビリティとの融合を発揮したメルセデス-AMG Eパフォーマンスを実現。


また『BMW』の「Mモデル」も同様にレースで手掛けたノウハウをつぎ込んで、i4M50やi5M60など究極のスポーツカーを生み出してきました。


アフターマーケットのサプライヤーとして有名なところは、メルセデス・ベンツの「ブラバス」です。EQSやEQS53をカスタマイズして、航続距離を伸ばすことに成功しました。他にはBMWの「ACシュニッツアー」も 、iX3を手掛けています。


このように既存の自分好みのデザインに特化させる足回りやエアロパーツ、オーディオ、インテリアなどのカスタムはもとより、今後は新しい方向に進化を遂げていきそうな予感があります。今までには考えられなかったような面白さや楽しみ方が広がりそうです。

パフォーマンスアップを目指すチューニングの方向性

パフォーマンスアップで考えた場合には、ガソリン車とEV車では車の構造が大きく異なります。ガソリン車の場合には吸排気系のパーツ交換やプラグの交換といった比較的簡単なパーツの交換から始めるのが一般的です。


しかしEV車には車両制御部品の「VCM(ビークル・コントロール・モジュール)」が採用されています。これはガソリン車のECM(エンジンコントロールモジュール)に相当するパーツです。


その役割は、ドライバーのアクセル踏み込み量などを常に監視し、モーター駆動や回生のコントロールを行うというものですが、チューニングを行うとなるとVCMのソフトウェアを書き換えることになります。


ソフトウェアの書き換えが進むともいわれていますが、現在のところ書き換えに関しては厳しい規制があります。「国連の自働車基準調和世界フォーラム(WP29)です。


この中には自働車メーカーやサプライヤーが車の販売を行う際には保安基準に適合する必要が以前からありました。それに加えて新たに「CSMS(サイバーセキュリティマネジメントシステム)の適合証明書の義務付けが定められています。


CSMSは自動車の生産サイクルや制御システムのセキュリティを管理するものです。システムの管理が加わると更に厳しさを増し、簡単に進むものではないという見方もあるようです。


また心臓部ともいえるバッテリーの換装などは、一般的にハードルの高いチューニングであり、現実的ではありません。もともとEVの加速性能は高いため、パフォーマンスを向上させることも難しいものになるでしょう。

各チューニングメーカーが手掛けているパーツを紹介

各チューニングメーカーが手掛けているパーツを紹介

チューニングを行うことは難しいといわれていますが、現段階で各チューニングメーカーがどのようなパーツを開発しているのかご紹介していきたいと思います。


・UNPLUGGED Performance


テスラを専門とするチューニングメーカーで、2013年にテスラ専門のチューニングメーカーとして設立されました。テスラのエアロやカスタム、インテリアなど幅広く手掛けています。


『東京オートサロン2024』ではレース仕様にアップグレードしたモデル3をお披露目しました。この車両は「Team TAISAN」から『全日本EVレース』に参戦し、2年連続優勝を果たした車両です。エアロパーツはもちろんのこと、サスペンションもチューニングされています。


アンプラグドパフォーマンスが目指すチューニングは、パワートレインではなくエアロパーツや車高調などの変更で、より魅力的なテスラを作りあげ、EVに興味を持ってもらうことなのかもしれません。


・A PITオートバックス 東雲


2018年に『スーパーオートバックス東京ベイ東雲』をリニューアルして誕生した『A PITオートバックス東雲』は、オートバックスの中でもカスタムやチューンの実績が豊富なショップです。完全車検対応チューンで『筑波サーキット』に挑み続けており、新たに電気自動車ブランドの「A PIT EV Performance」というEV車向けのブランドまで立ち上げています。


そんなA PIT が『東京オートサロン2024』に出展していたのは、「テスラ モデル3」や「ヒョンデ IONIQ5」でした。モデル3は昨年に引き続き2度目の登場で、今回は車高調をバージョン2として制作。ローダウンしつつ快適性とスポーツ性を楽しむセッティングを可能にしています。


車高調は『HKS』 との共同開発で、現状は試作品ですが、完成次第発売される予定です。


ヒョンデ IONIQ5ではフロントスポイラーやオーバーフェンダーを制作し、スポーティさとエアロパーツの楽しみ方を提案しています。現在のところ、A PITが提案しているパーツは、カスタムがメインになっているようです。


・BLITZ


チューニングパーツメーカーとして有名な「BLITZ」は、国産・輸入車向けのパーツを開発しています。サスペンションやマフラー、エアクリーナー、ターボなど幅広く手掛けてきました。中でも電子系パーツの開発を得意とし、「電脳集団」の異名を持つメーカーです。


『第26回大阪オートメッセ 2023』では「日産 アリア」でエアロパーツやローダウンを搭載したデモカーを展示。スロコンを設定してアクセルレスポンスを選択できるようにしました。しかし車両のシステムにおいて制御調整をするには至っておらず、先の見えない状況のようです。


BLITZが開発したのは、e-POWER向けのスロットルコントローラー「e THRO CON(イースロコン)」です。スロコンはエンジンの出力制御装置のことで、e THRO CONではエコモードやスポーツモードに応じて制御比率を調整することができます。


「EVエコモード」5種類、「EVスポーツモード」10種類に加え、アクセル開度と経過時間を基にBLITZ独自のプログラムを使用した「オートモード」5種類。そして電源オフの「ノーマルモード」と4モード系20種類の制御プログラムを搭載しました。


BLITZではEVのチューニングの難しさについて、モーターの制御よりもバッテリーの温度管理やセルごとの電圧と劣化時の制御の難しさを挙げています。エンジンなら何をしたらどんなふうに壊れるか経験と実績があるけれど、EVには経験と実績が不足していることで、ユーザーに不安を与えない準備を整えているところでしょう。


電脳集団らしく、果敢にチューニングにも取り組んでいる姿勢が見え隠れしています。現在はさまざまなEVパーツの開発を進め、実績と経験値を積み重ねている段階なのかもしれません。


・CUSCO


サスペンションや車高調などの製造販売を手掛ける『株式会社キャロッセ』は、CUSCOブランドでモータースポーツに参戦しているメーカーです。『第26回大阪オートメッセ2023』では自社ブランドのCUSCOパーツを搭載した「テスラ モデル3」を出展しています。


ラリーなどで活躍する競技用パーツをメインにしている老舗メーカーのキャロッセですが、テスラを手掛けたことには理由がありました。日本ではそれほどEVの需要は高まっていませんが、アメリカや中国からテスラ用のパーツの問い合わせが多くなっており、海外でのカスタマイズ需要の高さを感じたことに始まります。


CUSCOが手掛けたサスペンションは、EVの車重の重さやタイヤハウスの大きさから硬めのセットアップです。しかし今までのノウハウを活かしたローダウンや乗り心地を重視したセットアップを実現させています。


また剛性を向上したパーツを装着することで、効果を実感することも可能です。現状ではパワートレインのチューニングまでは考えておらず、ボディや足回りを中心としたパーツの開発を行っています。


・BBS


ドイツに本社を置く自動車部品メーカーで、タイヤのアルミホイールブランドとして広く知られる存在です。鍛造技術を使用した高品質なアルミホイールは高い強度と精度の高さ、軽さを実現しています。


BBSが『東京オートサロン 2023』で発表した「フォルティガ」はEV用に開発されました。EVのバッテリーが大容量化されたことで車両重量が増える傾向にあるため、新たな素材を採用したことが特徴です。


通常のアルミ鍛造と同等の剛性を持ちつつ、軽量化できれば航続距離を伸ばし電費の改善にもつながります。そこで新素材となるイタリア語のforte(強い)とlega(合金)を使用した造語が商品名フォルティガになりました。


ガソリン車と比較すると、バッテリーなどが追加されたことで大型化や高重量化が進んでいます。そのため足回りに対する負担も今まで以上です。フォルティガは高剛性を保ちながら、重要を約10%軽減することに成功。自社比較の実験ではバッテリーの消費を8%改善しています。

まとめ:カスタムはOK!でもチューニングメーカーには課題も

まとめ:カスタムはOK!でもチューニングメーカーには課題も

カスタムは、今後も各メーカーからこだわりのパーツが出てくることが期待できそうです。ドレスアップの方向性もスタンス系や痛車、スポコンといったこだわりのものから、車中泊などユーザーのニーズに合わせたものが多く登場してくるのではないでしょうか。


しかしチューニングとなると、EVの課題はまだまだ大きいかもしれません。ガソリン車との違いから、チューニングショップが手を加えることが難しくなっています。どこのメーカーも今開発しているのは数年先を見越したもので、目先のものではありません。故障が起きる原因が究明できていないパーツを生産することはできないため、経験と実績を取集している段階にあります。


EV車の先行きがまだまだ不透明な現在においては、EVの重心や重量配分などが内燃機関と異なっていることから、空力や足回りの強化に意義があります。速さは十分なので、応答性などに的を絞ったチューニングが必要です。


近い将来EVの速さを活かしたチューニングが、ユーザーを楽しませてくれる時代がくることを期待したいと思います。

著者プロフィール

【KAKO MIRAI】車好きから始まった自動車サイトでの執筆は、パーツからチューニングまで多岐に渡る。トルクフルなV8サウンドに魅せられて、ユーロライクなCAMARO Z28から乗り換えたDODGE CHARGER HEMIと、CADILLAC XT5でアメ車を満喫中。最近まで足車はCHEVROLET SONICという筋金入りのアメ車好き。 いつかガソリン車のDODGE CHARGER Hellcat Redeyeを手に入れる夢が断たれ、現在の目標はCHEVROLET Corvette C8。内燃機関好きから見たEVを徹底分析していきます。

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