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初の国内商用登録EV「ELEMO」(画像はプレスリリースより)

HW ELECTRO|国内初 商用EVメーカーが軽トラックから中型バン、小型ダンプまで幅広いEV車両をラインナップ。

国内初の商用EVメーカー「HW ELECTRO株式会社」。代表取締役社長を務めるのは蕭 偉城(ショウ・ウェイチェン)氏。ショウ氏が同社を起業したのは日本で被災したことがきっかけだ。2019年に創業したHW ELECTRO株式会社は2024年までに軽、ミニバン、ダンプと多様なラインナップを揃えリリース。環境問題と社会貢献を掲げ、海外進出も視野に入れている。経営戦略や商品プロモーションの陣頭指揮を執るC.I.戦略室室長の大谷敏行氏、製品開発部部長の神垣 学氏、販売戦略推進部の田中健貴氏に、創業からこれまでの経緯と今後の展望を伺った。

TEXT&PHOTO 石原健児

目次

  1. 被災体験がEVの活用と結びつき創業
  2. 良い製品の提供がユーザー満足の第一歩
  3. 国内各社と提携し、販売・メンテナンス網を構築
  4. ユーザーに合わせた車両カスタマイズも
  5. コネクテッドサービスによるユーザー・社会への貢献
  6. 国内販売の目標を策定、海外展開も視野に入れる
  7. EVの普及で環境改善を目指す

被災体験がEVの活用と結びつき創業

HW ELECTRO株式会社(以下:HWE)代表のショウ氏は幼少期から自動車が大好きで、車の製造にも興味があった。26歳にレーシングチームを立ち上げるとD1GP(世界最高峰のドリフト競技D1グランプリシリーズ)に参戦。同時にオリジナルサスペンションの開発・製造・販売も行うなど、車の製造にも携わるようになる。2017年には、中国一のタイヤメーカーである「中策タイヤ」の製品を扱う「GOODRIDE JAPAN株式会社 」を設立、日本国内で250社の販売代理店を開拓し、中国企業から高い評価を得た。


転機が訪れたのは2018年。ショウ氏は出張で訪れていた大阪で大阪府北部地震に遭遇し、都市部での大規模停電を経験した。災害時の電力確保の必要性を痛感したショウ氏は災害時の電力インフラの1つとして、EVによる給電を考えた。


ちょうどタイヤメーカーでの手腕を買われ、周囲からEVメーカー設立の打診を受けていたこともあり、2019年1月に開催された東京オートサロンに中国のEVメーカーCENNTRO(セントロ)社が販売・製造する中国製小型EVトラック「METRO(メトロ)」を出展。来場者からの評判は良く市場ニーズを確信したショウ氏は、展示会の4か月後にHWEを設立、車名を「ELEMO(エレモ)」とし日本への正規導入をスタートさせた。ショウ氏がHWEの目標として掲げるのは「環境問題」・災害時インフラなどの「社会貢献」・「経済発展」への貢献だ。

良い製品の提供がユーザー満足の第一歩

HW ELECTRO株式会社 C.I.戦略室室長の大谷敏行氏

HWEは自社で工場を持たないファビレスメーカーとして創業。開発・プロモーションの陣頭指揮を執るのはC.I.戦略室室長の大谷敏行氏。質・クオリティの追求には特にこだわった。「世界に冠たる自動車メーカーをいくつも有する日本のユーザーは、車に対する厳しい目を持っています。」と大谷氏。商用EVトラック導入にあたり、大谷氏らスタッフは輸入候補のセントロ社「METRO(メトロ)」を試乗し、ブレーキの効き、走行時のショックなど改善が必要な箇所をチェックした。


製品開発部部長の神垣 学氏は中国へ長期滞在し、現場の責任者やスタッフに直接指導。必要があれば、製造ラインに参加することも厭わなかった。良い製品を作ることがユーザー満足の第一歩。努力が功を奏し、創業から2年後の2021年4月、国内で初めて輸入小型EV商用車としてナンバーを取得。商用EV「ELEMO」(エレモ)の輸入・販売に至ったのだ。販売開始後も、HWEは品質向上の歩みを止めない。神垣氏は折を見て中国へ足を運び、現地スタッフとコミュニケーションを取る。海外出張は最長1カ月に及ぶことも。「一つひとつ粘り強く改善し、良い車両づくりを目指します」(神垣氏)。

HW ELECTRO株式会社 製品開発部部長の神垣 学氏

国内各社と提携し、販売・メンテナンス網を構築

中国と日本では車両に対する社会背景や制度が違う。軽自動車というカテゴリは日本独特の規格だ。したがって、日本国内で製品を市場に製品を送り出す前の検査、自動車納車前整備(PDI)も重要。HWEでは、2023年から国内老舗企業「アネスト岩田」と業務提携を結び、PDIと車両組み立て作業の協力を依頼している。ほかにも、販売やリース、販売後のアフターサービスやメンテナンス網も構築した。


2021年には、「オートバックスセブン」と業務提携を結び、同社の全国589店舗で販売やメンテナンスなどのアフターサービスが可能となった。2023年には自動車向けのトータルサービスを提供する「カーコンビニ倶楽部」との提携で、リース販売とメンテナンス、100万PVを超えるWEBサイトでのPRを開始している。同じく2023年には、エネオスグループ最大の「エネオスウイング」と提携。全国320か所のガソリンスタンドで、ラストワンマイルの配送事業者をターゲットとした販売を開始した。

花キューピットとの実証実験では「ELEMO」を使用(画像はプレスリリースより)

荷台を幌タイプに変更し、花の配送に適した形にカスタマイズ (画像はHWE提供)

2021年7月、「ELEMO」の販売後、一般社団法人JFTD 花キューピットとEV配送における実証実験を開始。小型トラックタイプの「ELEMO」に、花の配送に適した荷台のカスタマイズを施し宅配業務を行った。EVの商業運用やCO2削減モデルなどの実証が目的だ。


実験開始前、ショップサイドからは「走行距離が足りるのか」という懸念が示された。しかし、実験に使用したELEMOは1回の充電で約200kmの走行が可能。花キューピットの1日の走行距離は100kmほどで問題は起こらなかった。HWE販売戦略推進部の田中氏は当時を振り返る。「花キューピットさんからは、配送時にELEMOの特徴ある外観が注目を浴びた、と高い評価をいただきました。当社のEVはデザイン面の評判が良く、導入いただいた企業様がオリジナルのラッピングを施し、活用いただいています」。


2021年7月に「ELEMO」を発表したHWEは、同年11月サイズを軽自動車サイズへ小型化した「ELEMO-K」、2023年には、全長5400mm超えるミニバンサイズのEV、「ELEMO-L」を発表した。2023年には自社初となる商用オリジナル車「PUZZLE(パズル)」を発表、2024年1月には特装車の国内トップメーカー「新明和工業株式会社」と協業し「ELEMOダンプ」の販売を開始し、ユーザーの選択肢を広げている。


2023年1月の東京オートサロンでは、発売予定だった「ELEMOダンプ」を含め、6台を展示した。EVが、今ほど注目されていない状況だったが、来場者からは「目新しい」「EV商用車の専門企業が現れたのか」といった驚きの声が寄せられた。「好感を持って迎えられたことが嬉しく、新鮮な感動を覚えましたね」と、大谷氏は当時を振り返る。

オリジナル開発EV「PUZZLE」(画像はプレスリリースより)

ユーザーに合わせた車両カスタマイズも

ダンプタイプなど、カスタマイズも自由自在(画像はHWE提供)

HWEは、ユーザーを細分化し、車両を自由自在にカスタマイズできるようにした。商用EVメーカーとして、最適な車種の提供を目指している。たとえば、個人向けの宅配業者であれば、ELEMOの荷台を箱型(ボックスタイプ)にアレンジ。農林水産業であれば、荷物の積み下ろしが3方向からできるよう、ELEMOの荷台をピックアップタイプ(ロープフック付き汎用三方あおりトラック荷台)に変更する。といったように、職種やニーズに合わせた車種・荷台の提案が可能だ。「基本ベースがトラックタイプなので、荷室の改変が自由にできるのが当社の車両の一番の特徴です」(田中氏)どの業種にも対応できる商用EV。これこそHWEの強みの1つと言えよう。HWEのメインターゲットは企業などのBtoB向けだ。


2023年1月の東京オートサロンでは、自治体や福祉関係向けに車椅子を荷台に載せられる車両「電力車」を公開し、活用範囲の広さをアピールした。問い合わせは、一般企業から自治体まで幅広い。「軽トラック車両の入れ替えが必要な企業・団体は、ハイブリットやEVを視野に入れるところが増えていると感じています」(田中氏)。

コネクテッドサービスによるユーザー・社会への貢献

「社会貢献」はHWEが掲げる企業目標の1つである。2023年春、HWEは独自のコネクテッドサービス基盤「HW ELECTRO Platform Service」をリリースした。このサービスは、車両とインターネットをつなぎ、災害支援や配送領域の最適化など利便性の高いDX環境の提供を目的としている。


6月にはコネクテッドカーアプリケーション「MyHWE」をローンチ。ユーザーはモバイル端末と連携し、EVのバッテリー残量や充電ステータス、車両現在地を確認できる。また、8月にはヘルステック事業を展開する「株式会社メディロム」と事業提携を結び、バイタルデータとの連動による、ドライバー緊急時自動運転の実現を目指している。


災害時に車が給電などのエマージェンシーツールとしての役割を果たす。コネクテッドサービスもその一端だ。今後も、インターネットを活用した災害支援や配送領域の最適化など様々なサービスとの連携を強化していくという。

コネクテッドサービス概念図(画像はプレスリリースより)

国内販売の目標を策定、海外展開も視野に入れる

軽自動車は日本独自の車両規格である。世界に類を見ない「軽トラック・バン」市場。そこに独自のEV小型商用車両を参入させ、その地位を確立するのがHWE社の戦略だ。


2023年度の日本国内における軽トラック・バンの販売台数は約40万4000台。市場は5000億円規模と見られている。HWEが提供する「ELEMO-K」は軽貨物、「ELEMO」は小型貨物、「ELEMO-L」は普通貨物のカテゴリに属し、3つのカテゴリーの合計は国内新車販売台数の約16%に達する。HWEは、2024年を起点とした2030年までの販売ロードマップを策定。商用車5.2%、電動化車両21.8%のマーケットシェアを目指すとしている。


HWEが目指す市場は国内だけにとどまらない。2023年11月にはオリジナル新車種「PUZZLE」のコンセプトカー発表会をニューヨークで開催した。NY市街地での走行も行い、国際市場への本格的な参入を視野に入れている。


「アメリカでの「PUZZLE」発売はまだ先になると思いますが、2025年中には日本国内で発売を開始し、2026〜7年には東南アジアを中心に海外に向け販売をしていこうと考えています」(大谷氏)。

EVの普及で環境改善を目指す

ユーザーに合わせた商用EVを提供

「EV普及の鍵は充電設備の普及、そして価格競争力だと思っています」と大谷氏は語った。HWEの場合「ELEMO」の価格は300万円前後。オリジナルとなる「PUZZLE」ではそれをはるかに下回る税込で220万円を目指して開発を進めた。車両コンセプト考案時から、コストダウンにも配慮。左後ろのドアが、右前のドアと共用できるなど、できる限り共用パーツを組み合わせられるデザインにした。


「現在挑んでいるもう一つの課題が自社のPRです。HW ELECTROという企業名、ELEMOなどのプロダクトをいかに訴求し認知してもらうか、それが当社の更なる成長の鍵になると思います」。と大谷氏。最後に、未来のEVユーザーへのメッセージをゆだねてくれた。「災害時のインフラなど、「社会貢献」と「環境問題」が弊社が掲げる企業目標です。なかでも環境問題は1企業だけで解決できることではありません。ユーザーの方々にはEVの利用で、世の中を少しずつ変えていく一員となっていただきたいですね。私たちもEVの提供で、環境改善のお手伝いをしていきたいと思います」。


「環境問題」と「社会貢献」という2つの企業目標を掲げ、事業を進めるHW ELECTRO株式会社。今後の動向からも目が離せない。

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