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市場を席巻するBYDのEV戦略
公開日:2024/07/02更新日:2024/07/02
開発から製造まで一貫して自社で担うビジネスモデルやバッテリーにまつわる技術、それによって生産コストが高い傾向にあるEVでは難しいとされた幅広い価格帯のモデルのラインナップに成功するなど、BYDの独自性の高いEV戦略には目を見張るものがあります。
今回はBYDがEV市場において地位を確立したその戦略に焦点を当てていきます。
目次
カースモーラちゃんポイント
- BYDはEVの開発から製造までのほとんどを自社で賄っているんだ。
- 低価格帯のEVから高級車まで幅広いモデルをラインナップしているみたい。
- BYDの上陸は国内EV市場の価格競争に影響を与えることが予測されるよ。
BYDのEV戦略
近年その大躍進で世間を賑わせているBYDの強みとしてまず挙げられるのが、EVを幅広い価格帯でラインナップしているという点です。高額な車両価格で知られるEVとしては異例の200万を切る手頃な価格のモデルから、300〜600万円ほどの中堅クラスまで幅広くラインナップ。近年では高級車を専門とするブランド「仰望(ヤンワン)」や「方程豹(ファンチェンバオ)」を発表し、注目を集めています。
幅広い価格帯のラインナップの実現に大きく貢献しているのが、多くのEVメーカーとは異なる垂直統合型の事業形態です。
BYDはEVのパーツからバッテリーに至るまで、自社で開発から製造まで行うことで知られています。なんとタイヤとガラス以外の全てを自社生産で賄っているそう。これは他社と比べてスピード感のある開発・製造はもちろんのこと、EVの課題とされるコスト削減にも効果的に作用しています。
さらに特筆すべきは、BYDの親会社がEV用バッテリーのシェア世界2位を誇るバッテリーメーカーということ。それにより、BYDは競合EVメーカーと比較して、バッテリーに対するアドバンテージを持っていると言えるでしょう。
現在EVのバッテリーの主流とされているのは、正極材料にNMC(ニッケル、マンガン、コバルト)を用いた三元系バッテリーです。軽量でありながら高いエネルギー密度を持ち航続距離の点で優れているものの、貴重な金属を必要とするため生産コストが高く、EVの車両価格が高額になってしまう原因とされています。
一方で、BYDが得意とするのは安全性が高く、電池のリサイクル寿命が長い特長を持つLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリー。コスト面では優れているものの、重量あたりの蓄電容量が少なく、航続距離の点で三元系バッテリーに劣ります。そのため、競合EVメーカーは採用に消極的でした。
しかしながらBYDは薄く細長い形状によってエネルギー密度を引き上げ、LEPバッテリーの欠点を克服した新設計の「ブレードバッテリー」を独自開発。それにより、三元系バッテリーと同レベルの航続距離を実現しながらも生産コストを抑えたEVの開発に成功しました。
BYDの幅広い価格帯のモデルをラインナップすることによって、さまざまなユーザーのニーズを満たす戦略は、自社開発・生産と独自のバッテリー技術によって支えられているのです。
2023年にはテスラを抜き首位に
BYDは2023年第4四半期において、過去最大の販売台数52万6,409台を記録。長らくEVシェア首位に君臨していたテスラの48万4,507台を抜いたことで話題となりました。
前提としておさえておきたいのが、両社の業務形態が類似しているという点。前述の通り、BYDはEVの企画・開発から主用部品の製造までを一貫して自社で担う垂直統合型のビジネスモデルを採用しています。そしてテスラのビジネスモデルも同じく、開発から生産までを自社で担う垂直統合型です。
両者はこれによってガソリン車と比較して利益が上げ辛いとされてたEV市場において、現在の地位を確立したと言っても過言ではないでしょう。
そんなBYDとテスラの最大の違いは、EVの販売価格帯です。BYDはEVとしては非常に手頃な200万を下回るモデルから300〜600万円ほどの価格帯、近年では高級車まで幅広くラインナップしているのが特徴です。
一方でテスラの販売台数の大部分を占める主力車「モデル3」と「モデルY」の価格はどちらも500万円台からと、決して安いとは言えない金額。自社で販売まで行なっていることもあり、1台あたりの利益はトヨタ車のおよそ8倍とも言われています。ところが、高い性能や専用の急速充電器「スーパーチャージャー」の設置による充電インフラ整備により、世界首位のEVメーカーとして君臨していました。
しかしながら、NEV補助金の終了を皮切りに中国市場で価格競争が激化した背景もあり、現在EVの低価格化が進んでいます。それを先導するのが、独自開発のブレードバッテリーによりEVの生産コスト削減に成功したBYDです。
テスラを抜きBYDがEV販売台数トップの座を獲得したのは、価格競争の結果と言えるでしょう。
低価格EVによる日本市場への影響
中国からはじまったEV低価格化の流れは、世界中に波及しています。その動きを牽引するBYDがついに2023年に日本上陸。現在ではテレビCMの放映が開始するなど、いよいよ日本EV市場への本格的なアプローチがはじまりました。
BYD参入によって、EV価格競争の動きは国内EV市場でもより顕著に表れることが予測されます。
2023年の日本の新車販売台数は内EVのシェアは1.66%、プラグインハイブリッド車(PHV)と合算しても3.63%と今ひとつ振るわない現状。最も販売台数の多かったEVは日産の軽EV「サクラ」、2位は「リーフ」、3位に「アリア」と、日産車がトップを独占しています。
注目すべきはその割合です。首位のサクラの販売台数は国内EVのおよそ41%もの大きな割合を占める3万4,083台のセールスを記録しました。
つまり国内のEVシェアは、その半数近くを250万円台から購入できる低価格帯の軽EVが占めているのが現状です。日本市場において、低価格帯のEVは非常に重要な役割を担っていると言えます。
低価格帯のモデルを得意とするBYDが参入することで、少なからず影響を受けることは想像に難くありません。前述の通りBYDの低価格帯EVの中には200万円台を切るモデルも存在します。
今後激化が予想される国内EV市場の価格競争に日本の自動車メーカーが勝ち残るためには、更なるコスト削減はもちろんのこと独自の強みによる優位性が求められるのではないでしょうか。
カースモーラちゃんまとめ
さらに、親会社がEV用バッテリーを主とするバッテリーメーカーというアドバンテージを持っているのも強みと言えるね。LEPバッテリーの欠点を克服した独自開発の「ブレードバッテリー」によって、EVの生産コスト削減に成功したんだ。
それらの特徴を活かし、幅広い価格帯のモデルをラインナップすることによって、2023年第4四半期にはテスラを抜いて販売台数トップのEVメーカーになったんだね。
そんなBYDは2023年から日本のEV市場にも参入したの。価格の安いEVが求められる国内では、低価格帯のモデルを得意とするBYDの登場が脅威になるかもしれないね。
世界中で価格競争が激しくなっている背景もあって、今後は国内でもEVの低価格化が進むことが予測されているよ。
このブランドについて
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BYD
BYD
ついに日本へ上陸した中国メーカーでもひときわ活発なのが、2023年にSUVのATTO3とコンパクトカーのドルフィン、2024年にはセダンのシールを発売するBYDです。もともとバッテリーメーカーで2008年には世界初の量産PHEVを発売、多くの自動車メーカーがエンジンメーカーから始まったのと同じ経緯で参入した実績からも、クルマの電動化に関心のあるユーザーからの知名度が高く、成功する可能性が高いと見られていました。2015年には電動バス、翌年には電動フォークリフトで日本へ参入し、着実な実績を経て乗用車でも参入を果たした手堅い手法や、模倣ではない世界水準のデザインからも今後の成長が期待されます。