日産フォーミュラE、チーフパワートレインエンジニア西川直志が自身の仕事について語る

日産自動車株式会社は、30日に東京で開催されるフォーミュラE世界選手権シーズン10の第5戦に、日本の自動車メーカーとして唯一参戦する。過去4戦でカスタマーチームであるマクラーレンを含め優勝1回と2度の表彰台獲得に貢献しているパワートレインの開発を担当している西川直志(にしかわ ただし)は、3年前に日産の技術開発部門からチームに合流し、レースと量産車開発の間を繋ぐ重要な役割を担ってきた。

パワートレイン開発担当 西川直志に聞いた

日産フォーミュラEチームでの経歴と現在の役割は?

2004年に日産に入社以来20年になります。フォーミュラE開発を担当する為に渡欧する前は、「スカイライン」「フェアレディZ」「日産リーフ」など、市販車のドライブトレイン開発を担当していました。2021年から日産フォーミュラEプロジェクトに参画し、現在はチーフパワートレインエンジニアを務めています。主な役割は、クルマの性能を最良にするためにパワートレイン開発を統合的にとりまとめることです。特定のパーツを設計するのではなく、プロジェクト全体を管轄しているので、エンジニア業務だけではなく、マネジメント領域にも携わっています。

市販車開発からモータースポーツ分野に移ったきっかけは?

以前はドライブトレインのエンジニアでしたが、当時の上司がその経験をフォーミュラEのパワートレイン開発にも活かせるのではないか、と提案してくれたことがきっかけです。チャレンジングな仕事であることは分かっていましたが、オファーを受けた時はとても嬉しくモチベーションは高かったです。当時から海外のエンジニアとは一緒に仕事をしていたため渡欧する心構えはできていました。

日本の技術開発部門とは日常的に連携しているのですか?

日本のエンジニアとは定期的に連絡をとっています。フォーミュラEと市販車の異なる2つの事業を共に発展させ、より良い成果を生み出すことを目指して、日産の開発の本拠地にいるエンジニアと将来の技術について意見交換をしたり、アイデアを共有したりすることもあります。

クルマの開発の難しさはどこにありますか?

車両開発では、各部品のエンジニアが、担当部品の開発を行います。そのため、それぞれの部品では良い性能が出たとしても、それらの部品を組み合わせた時に問題が生じ、また狙った性能にならないという事があるので、クルマの全体最適を図る作業が難しいポイントです。1台のクルマとしての性能を出すためには、特定の部品の性能だけでは無く、クルマ全体で改善していく必要があるのですが、自分の仕事に誇りを持っているエンジニア達と議論を重ねて全体最適に導く必要があります。そこが難しさでもあり、やりがいを感じる部分でもあります。

フォーミュラEマシンの開発へ異動になった際、どのような違いが最も印象的でしたか?

市販車の開発では、一般的に過去のモデルや市場で販売されている他メーカーのモデルなどをベンチマークすることで目標値の位置づけがより明確になります。それに対し、モータースポーツでは競合メーカーの車や開発内容などをベンチマークすることは基本的に不可能です。例えばエンジニアがチームを移籍するとそのノウハウを使えると思われがちですが、すべての情報が機密事項であるため多くを共有することは難しいのです。

市販車開発とフォーミュラEマシン開発を両方行う事でどのようなメリットがあるのでしょうか?

市販車とフォーミュラEマシンは、それぞれで求められる技術が大きく異なるため、簡単に部品転用が可能になるようなメリットはあまりありません。ただ、私たちは日産の市販車開発からのノウハウや設計手法をフォーミュラEマシンの開発に取り入れたりしています。よって、直接的ではないものの市販車開発の知見がフォーミュラEの開発にも良い影響を与えていると考えています。レーシングカー開発は最新の技術を最大限に活用しています。レーシングカーは市販車とは異なり、騒音や振動、コストなどをあまり気にする必要がありません。エネルギー効率と出力密度という点では、フォーミュラEマシンは市販車よりも遥かに高いレベルにあります。制約なくパフォーマンスを突き詰めることで、市販車開発では思いもつかないような新しい何かを見つけることができ、そこで得られたことを市販車に適用する方法を考えることができます。自分たちの限界にチャレンジし、そこで得られたことを市販車開発につなげるという考え方は、フォーミュラEに参戦する大きなメリットだと考えています。

フォーミュラEチームに参加した時、市販車開発の経験はどの程度役に立ちましたか?

エンジニアリングの知識としてのベースはありましたが、学ぶべきことは多くありました。例えば、過去の市販車開発の経験は間違いなく役に立っているものの、電動部品を自分で設計したことは無かった為、各部品がどのように設計されているかを学ばなければなりませんでした。また、意見が衝突した時の対処方法やチームワークの重要性、個々の部品の性能だけでなくクルマ全体を最適化するという考え方や視点など、日本にいる時のプロジェクトの開発経験は今でも活きています。

市販車とフォーミュラEマシンのパワートレイン設計に対する違いは何ですか?

コストや音振などの考え方は大きく違います。私は以前、ドライブトレインのユニット設計を担当していたので、ノイズや振動を抑えながら、高効率且つ軽量にする為にはどのようなトレードオフを解決しなければいけないのかと言う点はよく知っていました。市販車ではノイズや振動への対策は非常に重要な部分なので常に意識をしていましたが、前述の通り、フォーミュラEのパワートレインではその点は重要視する必要はありません。チームに合流した直後に、こういった制約条件が外れることでこんなに高い伝達効率が達成可能なのか、と驚きと奥深さを感じました。

フォーミュラEでは、各メーカーのパワートレインに大きな違いはあるのですか?

シーズン9では、各メーカーのパワートレイン効率や総合的なパフォーマンスという点で違いを感じていました。しかしながら、シーズン10ではあまり大きな違いは無いと思います。トップメーカー4社の実力は非常に拮抗しているため、より気合が入ります。今シーズン投入したソフトウェアのアップデートがとても良い効果を発揮しています。より効率的にエネルギーをマネジメントすることが可能となり、ドライバーの負担を軽減し、他チームとの差を縮めることに貢献しています。



2024/03/28 日産自動車ニュースルームより

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    日産

    かつては日本第2位の自動車メーカーであり、自他ともに求める「技術の日産」として、真剣なクルマ選びに値する玄人好みのクルマがユーザーに支持される日産自動車。フェアレディZやスカイライン、GT-Rといった歴史と伝統を誇るV6DOHCターボエンジンのハイパワースポーツをイメージリーダーとして大事にする一方、2010年に発売したリーフ以降、SUVのアリア、軽自動車のサクラなど先進的なBEVをラインナップ。さらにエンジンを発電機として充電いらず、従来どおり燃料の給油で乗れる「e-POWER」搭載車を増やしており、モーターのみで走行するクルマの販売実績では、日本No.1の実績を誇るメーカーでもあります。
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